劣化ウラン弾:高まる規制機運 ベルギーで禁止法

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 ◇イラク・アフガンで米軍などが大量使用
 イラク、アフガニスタンなどの紛争地域で米軍などが使用した劣化ウラン弾の健康被害を追及する動きが広がり始めている。ベルギーが先月、劣化ウラン弾禁止法を施行し、被害国やNGO(非政府組織)の運動も活発化してきた。対人地雷、クラスター爆弾に続き、劣化ウラン弾の使用禁止の可否を国際社会は問われている。【鵜塚健】

 ■苦しむ子ども

 「バスラの小児白血病の発症率は93年から06年で5倍近くに増えた」。5月初旬、イラク南部バスラで開かれた「第1回国際がん学会」で、米国の医師が調査データを明らかにした。バスラ周辺では、湾岸戦争とイラク戦争で大量の劣化ウラン弾が使用された。紛争後、白血病を含む小児がんや乳がんなどが増え、背景に劣化ウラン弾の影響を指摘する医師も多い。

 イラクの小児がん患者支援を続けるNGO「日本イラク医療支援ネットワーク」の佐藤真紀事務局長は「医薬品不足や貧困も加わり、救えるはずの命も救えない。新たな被害を防ぐためにも劣化ウラン弾の規制が必要だ」と語る。

 ■使い続けた米

 米軍は湾岸戦争(91年)で劣化ウラン弾を初めて大量使用した。北大西洋条約機構(NATO)軍の旧ユーゴスラビア空爆(99年)、アフガン軍事介入(01年)やイラク戦争(03年)でも使い続けた。

 米国ではイラク帰還兵が「体調不良や出産の異常は劣化ウラン弾の影響」として、国家賠償訴訟も起きた。しかし、不発弾で手足を失うクラスター爆弾と比べ、因果関係が明白でないのが劣化ウラン弾被害の特徴だ。

 世界保健機関(WHO)は01年、「劣化ウラン弾使用と発がんとの関連は確認されていない」と報告。国連総会は07年と08年に劣化ウラン弾に関する決議を採択したが、「一時使用停止」は審議途中で削除された。

 だが、欧州などで規制の具体化が始まっている。ベルギーは07年、対人地雷、クラスター爆弾に続いて国内で劣化ウラン弾の製造、使用、貯蔵などを禁止する法律を制定し、今年6月施行した。

 イタリアでは、旧ユーゴやコソボで活動した退役軍人らが劣化ウラン弾被害について国を提訴した。同国は昨年12月、退役軍人の健康被害への包括的補償を決めた。今年4月、ノルウェー政府はNGO「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(ICBUW)に対し、イラクなどでの劣化ウラン弾被害調査の補助金年間5万6000ユーロ(約750万円)の支給を決めた。

 ■日本は様子見

 欧州のNGOは、重大な影響が懸念される場合、科学的立証がなくても規制に乗り出す「予防原則」を重視し、劣化ウラン弾問題で「クラスター爆弾禁止条約に続く規制の枠組みを」と訴える。

 一方、日本政府は「WHOなど国際機関の調査結果を注視する」と静観の構えだ。外務省幹部は「日米関係がある以上、率先して禁止の旗は振れない」と本音を漏らす。

 医師の振津かつみ・ICBUW運営委員は「在日米軍の劣化ウラン弾保有数すら政府は把握しようとしない。予防原則を踏まえて、被爆国・日本こそ規制に取り組むべきだ」と語る。

 ◇米の反応に変化も--ベルギー・マウー議員に聞く
 ベルギーで劣化ウラン弾禁止法などの軍縮法制定を推進したフィリップ・マウー上院議員(65)に聞いた。【ブリュッセル福島良典】

 ベルギーは多くの国連平和維持活動(PKO)に参加しており、派遣先で「対人地雷、クラスター爆弾が使用されなかったこと」を自国の参加条件にすることも可能だ。そうしたルールを広げれば使用国を孤立させられる。対人地雷、クラスター爆弾と同様に劣化ウラン弾についても国際的な禁止条約を作るのが目標だ。

 禁止後に重要なのは、被害者救済と汚染除去だ。劣化ウラン弾の場合、放射能検出による汚染地域の特定から始めなければならない。米軍のイラク撤退後、放射能被ばく者の科学的調査が必要だ。オスロで北大西洋条約機構(NATO)加盟国の議員団総会が開かれた際、対人地雷、クラスター爆弾、劣化ウラン弾問題で米議会代表団にただすと、ブッシュ前政権時代と違い完全拒否ではなかった。オバマ政権が禁止条約への対応を変える可能性がある。

 劣化ウラン弾は市民を巻き添えにした被害が長期に続く点で核兵器と共通している。核兵器も禁止するのが私の考えだ。(7月6日の)モスクワでの米露首脳会談からは前向きの意思がうかがえる。日本人は核兵器に敏感であり、私たちは反核運動で平和市長会議(会長・秋葉忠利広島市長)と協力している。(談)