――EU議会で写真展と国際フォーラム開催――
[1]豊田直巳写真展:5月14-16日 『ウラン兵器の人的被害』(The Human Cost of Uranium Weapons)
5月14-16日、ブリュッセルのEU議会内にて豊田直巳写真展
『ウラン兵器の人的被害』(The Human Cost of UraniumWeapons)とともに国際フォーラム『ウラン兵器禁止に向けて』が開催された。これらは、EU議員有志とICBUWによる共同企画である。 15日午後6時から、EU議会ビル3階大回廊の展示会場で開かれた「オープニング・レセプション」には、百名程の人が集まり、豊田直巳さん、森滝春子さ ん、それに、今回の企画で中心的役割を担ったEU議会議員、エルス・デ・グローエンさん(オランダ)、アンゲリカ・ベールさん(ドイツ)などの、それぞれ 熱のこもったスピーチに耳を傾けた。
オープニング式典での豊田直巳さんの挨拶から
「・・・ウラン兵器を使用するアメリカ政府も、そのアメリカ政府を支援する日本政府もウラン兵器の危険性を認めていません。しかし、日本では兵器でなくともウランを撒き散らすことは違法なのです。日本政府は自国内では危険とされるウランを、イラクやバルカン、あるいはアフガニスタンで使用する際には「危険はない」という矛盾を犯しているのです。私としては、3月に「ウラン兵器禁止」を決議した、ここベルギーのように、一国も早く日本が、普通の国になることを願います。同時に、EU議会が、そしてEU参加する国々が、ウラン兵器の廃絶をすることを願っています。おそらく、それがここに掲げた写真に写った人々の願いでもあると信じています。犠牲者への支援と、そして、新たな犠牲者を作らないために。」
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スピーチの後、しばらく参加者は、三々五々、写真を見ながら言葉を交わしていたが、大型サイズの写真が伝える劣化ウラン被害の現実への驚愕と憤りを多くの人が語っていた。今後、『豊田直巳写真展/ウラン兵器の人的被害』写真展は、ヘルシンキ、バンクーバーなどで開催の予定。(ヘルシンキでは、9月13-21日、フィンランド議会内での開催が決定)他に、ロンドン、ローマなどでも今回の写真展を見たEU議会議員の協力を得て開催の可能性が出てきている。
[2]国際フォーラム「劣化ウラン兵器禁止に向けて」
2007年5月15日9:30-13:00、EU議会ビル内会議室
写真展の開催に合わせて、5月15日午前には、国際フォーラムが同じくEU議会ビル内で開かれ、EU議会議員、活動家、ジャーナリストなど数十名が参加した。(下掲プログラム参照)
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ベルギーで禁止法案が可決されたことにより、劣化ウラン兵器国際禁止キャンペーンは新たな局面に入ったと言えよう。今回のEU議会での取り組みは、その出発点を画すものとなった。
写真展オープニングのスピーチの中で、ドイツのアンゲリカ・ベールさんは、「ヨーロッパを“非ウラン兵器地帯”にしよう」との提案をし、大きな拍手を持って迎えられた。(スピーチ全文は下掲)国際フォーラムの中で、司会の一人、キャロライン・ルーカス議員(イギリス)も、この構想に全幅の賛同を表明した。また、フォーラムの直後、参加したEU議会議員たちが、改めて、劣化ウラン兵器禁止問題に関する質問状をEU議会に提出し、ルイーザ・モルガンティーニEU議会副議長(イタリア選出)も同様の趣旨の見解を発表した。
対人地雷止に続いて、クラスター爆弾の禁止条約作りが始まった勢いも活かしつつ、劣化ウラン兵器禁止に向けた大きなうねりを作り出して行きたい。
ICBUWでは、今年10月には、第4回ICBUW国際大会をニューヨークで開く。できれば、この時期に「ウラン兵器に関する決議案」を国連第一委員会(軍縮、安全保障関連)に提出するため、各国代表部へのロビー活動に取り組んでいる。今後一層のご支援をお願いする次第である。
「ICBUWサポーター拡大キャンペーン」実施中
劣化ウラン兵器は、無差別的被害をもたらす非人道的兵器です。 一日も早く全面的禁止を実現するため、ぜひあなたもICBUWサポーターになって、国際キャンペーンを支えてください!
カンパ振込先: 郵便振替口座名: 「ICBUW・国際キャンペーン」
口座番号: 01310-0-83069
[一口:個人2,000円、団体5,000円。多数口、大歓迎]
[「個人:一口1,000円」でお願いして参りましたが、この度、改めて「サポーター拡大キャンペーン」に取り組むにあたり、個人サポーターには一口2,000円、団体会員には一口5,000円をお願いすることとなりました。言うまでもありませんが、国際キャンペーンを進めるにあたっては、チラシやパンフレットの作成費、事務局運営費などなど、かなりの資金が必要となります。事情をご理解くださり、ご支援の程、何卒宜しくお願いいたします。]
嘉指(かざし)信雄/ICBUW運営委員、アジア太平洋地域コーディネーター 振津かつみ/ICBUW運営委員、科学チーム 森滝春子/ICBUW運営委員
[なお、今までは、ICBUWの中心的メンバーを「評議員」(board member)と呼んで参りましたが、より実際のあり方に相応しい「運営委員」(steering committee member)という名称を用いることとなりました。また、ブリュッセルでの運営委員会で、新たに森滝春子さんが「運営委員」に加わることとなりました。(現在、ICBUW運営委員は9名)海外のメンバーとも力を合わせながら、精一杯頑張って参りますので、一層のご支援をお願いいたします。]
豊田直巳写真展『ウラン兵器の人的被害』 オープニングでの挨拶:2007年5月14日
アンゲリカ・ベール(Angelika Beer):EU議会議員(緑の党)、ドイツ
皆さん
この写真展、そして明日の「ウラン兵器禁止にむけたフォーラム」を開催することができましたことを嬉しく思います。この催しを行うことによって、私たちの共通の目標でありますウラン兵器禁止に向け、さらなる一歩を踏み出したいと思います。ICBUWと豊田直己さんには、心から御礼申し上げたいと思います。
劣化ウランを兵器に用いることは大きな脅威です。それは、環境を広範に汚染し、兵士や市民も含む人々に深刻な被害を及ぼします。劣化ウラン(U238)の半減期は45億年にも及ぶため、武力紛争の終了後も長期にわたって、何世代もの間、自然や人間に脅威を与え続けるのです。
ですから、ここ欧州議会内での、この写真展を機会に、ウラン兵器禁止へ向た努力を続けると同時に、欧州において何ができるかを改めて問い直したいと思います。幸いにも、欧州議会では、これまですでに、このような兵器の禁止決議をあげるなどの呼びかけを行ってまいりました。しかしながら、もっと、やるべきことがあります。欧州連合(EU)のレベルで、最も力を入れて取組むべき課題が三つあると思います。
第一に、EUを「非ウラン兵器地帯」(uranium weapon freezone)にするための取組みです。この問題は、各国の政権に委ねられるわけですが、「非ウラン兵器地帯」政策をEUとして掲げることにより、加盟国に圧力をかけることができると思います。
第二に、世界での役割を担うことのできるEUが、ウラン兵器禁止の国際条約の採択に向けた流れを推進すべきです。ウラン兵器は、国際法の様々な原則に照らして違法なものではありますが、しかし、明確な禁止によってのみ、確かな結果が得られるのだと思います。
第三に、EUは、軍隊派遣について、次のような確固たる原則を定めるべきです。EUの軍隊はウラン兵器やウランを含む装甲板などを決して使用しないこと。また、同盟国が、そのような装備を使用するような作戦には、EUの兵士を任務につかせることはしない、ということです。
ウラン兵器を世界から無くすには、大きな献身的努力が必要なことは明らかです。ICBUWや豊田直巳さんが、行っているような活動が必要なのです。特に、豊田さんの献身的なお仕事は、彼にしかできないような、この問題へのアプローチです。彼の写真は、武力紛争でのウラン兵器使用で引き起されたと考えられる被害の真実を、私たちに伝えてくれています。それを、私たちの胸に深く刻み込んでくれます。彼の写真が、重要な役割を果たしてくれることを願っております。ありがとうございました。(振津かつみ訳)
国際フォーラム「ウラン兵器禁止に向けて」プログラム
司会:エルス・デ・グローエン(EU議会議員、オランダ)、キャロリン・ルーカス博士(EU議会議員、イギリス)
スピーカー
・ 振津かつみ博士(医師・放射線学者、日本)
「ウラン兵器が禁止されるべき科学的・医学的理由」
・ ジャワッド・アル-アリ博士(バスラ教育病院がんセンター長、イラク)
「バスラにおける“がん研究”:資金問題及び様々な障害」
・ トマス・フィエジー博士(医師、マウントサイナイ病院、アメリカ)
「何故、劣化ウラン兵器から発生する塵は危険か」
・ ジェラルド・マシュー(イラク戦争帰還兵、アメリカ)
「劣化ウランと私」
・ エマニュエル・ジェイコブ(EUROMIL=「ヨーロッパ軍人組織連合」代表、ベルギー)
「劣化ウラン兵器の使用に関するEUROMILの見解」
・ ヴィム・ヴァン・デン・ブルク((EUROMIL=「ヨーロッパ軍人組織連合」オランダ代表、オランダ)
「劣化ウラン兵器は兵士にとってメリットを持つか?」
・ 嘉指信雄(ICBUWアジア太平洋地域コーディネーター、NO DU ヒロシマ・プロジェクト代表)
「作られつつあるICBUWキャンペーン:その成果と課題」
[付記:なお、今回のベルギー滞在中、ブリュッセルから汽車で1時間45分程、フランスとの国境のすぐ近くにあるイーペルの町まで、豊田さんや森滝さんと一緒に日帰りで足を伸ばすことができた。イーペルは、第一次大戦中、毒ガスが化学兵器として初めて大量に使われ、長く悲惨な戦闘が繰り返されたところ。数ヶ月続いた1917年の戦いでは、50万人近い死傷者を出したと言われる。イーペルで使われたことから「イペリット」とも呼ばれるマスタードガスは、第二次大戦中、広島の大久野島でも製造され、中国戦線で使用されたことでも知られている。ローマ時代からの古い歴史をもつというイーペルの街は、第一次大戦でほとんど完全に破壊尽くされたが、今は、見事に復元され、一見したところ、典型的なヨーロッパ中世風の観光都市に見える。だが、城塞への出入り口となっている大きな石造りの門には無数の兵士の名前が刻まれ、白い墓標の群れがそこかしこに散在している。ヒロシマ・ナガサキと並んで、イーペルが「平和都市」として大きな象徴的意義を担っている所以が納得された。実際、世界に先駆けてベルギーが可決してきた、対人地雷禁止法(1995)、クラスター爆弾禁止法(2006)、そして劣化ウラン弾禁止法(2007)は、1933年に成立した「兵器法」(特定兵器の製造や売買などを禁止する法律)に追加条項を加え発展させる形で作られてきている。「ヒロシマ・ナガサキ」の経験にもかかわらず、軍縮問題に消極的な日本との違いを改めて考えさせられた。(嘉指)]