加速する劣化ウラン兵器禁止国際キャンペーン

コスタリカで劣化ウラン兵器禁止国際大会
 2009年3月4-6日、コスタリカのサンホセで第5回ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)国際大会が開催された。(プログラム下掲)また大会初日には、劣化ウラン(DU)兵器禁止法案がコスタリカ議会に提出され、一年程で成立する見通しとのこと。(2007年3月、世界に先駆けて禁止国内法を成立させたベルギーにコスタリカが続くこととなる。)当法案を提出したアレクサンデル・モラ=モラ議員は、コスタリカ議会のみならず、「ラテン・アメリカ議会」(Latin American Parliament)でも人権委員会の議長を務めており、ICBUW運営委員との面談の席や法案提出直後に開いた記者会見の場で、DU兵器禁止の動きを国際的にも先導する意欲を表明しています。早速、3月中旬、アルゼンチンのブエノスアイレス開かれた「ラテン・アメリカ議会」で、劣化ウラン兵器問題への取り組みを活動家のダマシオ・レペス氏とともに訴え、大きな反響を呼んだと伝わってきている。

 最近は、他にも、劣化ウラン兵器問題及び禁止国際キャンペーンで大きな動きが続いて起きている——

(1)二年連続して国連総会で劣化ウラン決議
 2007年、2008年と二年連続して、国連総会で劣化ウラン問題関連決議が圧倒的多数で採択され、DU兵器の健康や環境への影響に関する見解を提出するよう、事務総長の名において、加盟国や関連機関に要請が出された。

(2)イタリア政府、劣化ウラン被害に苦しむ退役軍人に一括補償
 劣化ウラン2008年12月、イタリア政府が、劣化ウラン被曝のため重病にかかった帰還兵に対する3000万ユーロの一括補償を決定。カバーされる退役軍人1,703名のうち、77名はすでに亡くなっており、派遣された地域は、ボスニア=ヘルツェゴヴィナ、コソボ、アフガニスタン、イラクなどを含む。

(3)ノルウェー政府、ICBUWの劣化ウラン問題調査に助成金支給決定
 ノルウェーの外務省は、人権、軍縮、平和構築などの分野で活動する世界各地の団体に資金援助をしてきているが—最近では、クラスター爆弾禁止プロセスへの支援が広く知られている—今年度は、ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)による調査プロジェクト3件に対しても助成金が支給されることとなった。
 ICBUWは、ここ数年ジェネーブやニューヨークで、各国の国連代表部などへのロビー活動を重ねてきているが、2007年10月、ニューヨークで開催された第4回ICBUW国際大会の後、ノルウェー代表部を訪れた際、今回の助成金への応募を勧められた。[この時の訪問では、朝一番の面談であったにもかかわらず、ノルウェー代表部の方が四、五名応対してくださり、そのこと自体にとても驚いた。]

 今回助成対象となったのは、下記の3つのプロジェクトである。
(1) バスラ地域の疫学調査
   ・目的:劣化ウラン兵器使用が一般市民の健康に及ぼしている影響に関する長期的調査
・ 助成金額(予定):年25,000ユーロ(約325万円)
・ 支給年数:限定せず
(2) ウラン兵器の拡散・製造・売買についての調査
  ・目的:劣化ウラン兵器の保有国・保有量・種類などについて調査。専門研究員をICBUWマンチェスター事務所に置く。
・ 助成金額(予定):年25,000ユーロ(約325万円)
・ 支給年数:3年

(3)バルカン半島における劣化ウラン汚染調査
   ・目的:90年代、旧ユーゴスラヴィアの紛争でNATOによって使用された劣化ウラン弾の影響についての現地調査。
(ア) 助成金額(予定):6,000ユーロ(約78万円)
(イ) 支給年数:1年(2009年末までに実施)

 今回、ノルウェー政府がICBUWの調査活動に対しする助成金支給を決めたことは、劣化ウラン兵器問題に関する国際的関心の高まりを象徴するものであり、禁止国際キャンペーンは、さらに新たな段階に入ったと言えよう。こうした勢いを活かしつつ、ウラン兵器廃絶の一日も早い実現に向けて、一層力を入れて取り組んで行きたい。
 とりわけ日本政府に対しては、ノルウェー政府のように、国際的な先導的役割を、被害調査・被害者支援などの分野で果たすよう要請して行きたいと思う。
 一層のご支援・ご協力を何卒宜しくお願いする次第である。

 嘉指信雄、NO DU(劣化ウラン兵器禁止)ヒロシマ・プロジェクト代表:

*『ウラン兵器なき世界をめざして—ICBUWの挑戦—』(2008年4月発行/「平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞」受賞)や「キャンペーン・ポストカード:BAN DU NEXT(次は、劣化ウラン兵器禁止だ!)」(日・英、各8枚一組)などについては、
「NO DUヒロシマ・プロジェクト」ホームページをご覧くださいーー http://www.nodu-hiroshima.org/

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ラテンアメリカ・ウラン兵器会議プログラム

3月4日(水)6:00-9:00/於:メキシコ文化会館
レセプション
・歓迎の言葉:イザベル・マクドナルド(サンホセ平和センター)、嘉指信雄(ICBUW)
・ 豊田直巳写真展「ウラン兵器の人的被害」
・ 新作ドキュメンタリービデオ「ウラン」(制作:パブロ・オルテガ)

3月5日(木)/於:インターアメリカ人権会館
午前
(1)「The Human Face of DU/活動家セッション」
 :ダマシオ・ロペス(米ニューメキシコの射爆場近くに自宅)
 :ハーバート・リード(イラク戦争帰還兵で、検査の結果、劣化ウラン陽性反応。他の帰還兵7名とともに、米陸軍省を相手取って、劣化ウラン被害賠償請求裁判中)
 :マッシモ・ツケッティ(イタリア、トリノ工科大学教授)
(2)「ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)の歩みと目標
 :リア・ヴェルヤオ、ダグ・ウィア
午後
(3)「科学セッション」
:振津かつみ「DUの健康への影響:ウラン兵器が禁止されるべき科学的根拠」
:グレーテル・マンロー「湾岸戦争以降の米帰還兵に関する最近の研究」
:ジャワッド・アル-アリ「南部イラクの人々の健康に与えている戦争の影響」
(スペイン通過ビザが取得できなかったため参加できず、振津が代わって報告)
—→アレクサンデル・モラ-モラ議員「前日、コスタリカ議会に提出された劣化ウラン兵器禁止法案について」
(4)「日本セッション」
:豊田直巳「私があった劣化ウラン被害者たち:イラク、アメリカ、イタリア」
:嘉指信雄「広島と日本におけるNO DUキャンペーン/”NO WAR NO DU!”から”BAN DU NEXT”まで」

3月6日(金)
午前
*歓迎の言葉:「アリアス基金」代表
(5)「ICBUWキャンペーン」
:ダグ・ウィア「禁止条約実現に向けて」
:嘉指信雄「作られつつあるICBUWキャンペーンの挑戦/被害者支援・メディア・連帯」
午後
(6)ランドルフ・コトー(コスタリカ外務省):
「国連決議に応じた、劣化ウラン問題に関するコスタリカの見解」
(7)カルロス・ヴァルガス(副会長、IALANA=国際反核法律家協会)
「国際法から見たウラン兵器の違法性」
(8)ビデオ報告「パナマの米軍基地における劣化ウラン汚染問題」
*世界各地からのメッセージ:EU議会議員グループ、ハワイ・北欧・ニュージーランドのNGOグループ、日本社民党党首・福島みずほ等。
(9)「コスタリカにおけるウラン兵器禁止」
:フランシスコ・コルデロ(コスタリカ議会秘書長、「サンホセ平和センター」前理事長)/ダマシオ・ロペス/カルロス・ヴァルガス/ランドルフ・コトー/リア・ヴェルヤオ/ジェリー・カンポス(コスタリカ議会顧問)
(10)「コスタリカ・アピール」発表

 [「コスタリカ・アピール」は、「クラスター爆弾禁止条約」に続いて、「ウラン兵器禁止条約」も実現させるべく、力を合わせて、さらに大きくキャンペーンを前進させようと呼びかけている。また、ICBUWのこれまでの取組みの成果を確認するとともに、国連などでの前向きの動きを踏まえ、世界各国、各地域でのキャンペーンの拡大を訴え、特に、今回の大会がコスタリカで開催されたことからも、ラテン・アメリカ各国でのウラン兵器の禁止に加え、同地域を「非ウラン兵器地帯」にすることを提言している。
 なお、今回のコスタリカ大会会場には、アメリカとコスタリカの二重国籍を持ち、アメリカ兵として湾岸戦争やイラク戦争に従軍し、重い病に苦しんでいる二人の元兵士も来ていました。大会後、お二人に会って改めて話を聞くことができましたが、劣化ウラン兵器のことは、今回の大会まで全く耳にしたことがなく、コスタリカには、彼らと同じようにアメリカ兵として従軍した経験をもつ兵士が一万人以上住んでいるだろうとのこと。1948年に憲法によって常備軍を廃絶した平和主義の国としてしられるコスタリカの複雑な現実を知らされました。]

写真キャプション:大会初日夜のレセプションにて、その日の午前中に劣化ウラン禁止法案提出したことを伝えるアレクサンデル・モラ=モラ議員