御庄 博実(みしょう・ひろみ)
1925年、山口県岩国市生まれ。本名丸屋博(まるや・ひろし)。
原爆の投下された二日後、放射能うずまく広島の市街を御庄は、
知人の消息を求めてさまよった。被爆の詩人の多くは早世したが、
御庄は若年の肺疾患を克服し、現在まで原爆の悲惨を訴えつづけ、
また医師丸屋博として原爆症の研究と治療に専念してきている。
詩業と医術の二面から原爆に対峙してきた日本人として希有なる存在である。
『御庄博実詩集』(現代詩文庫168)などの他に評論・エッセイがある。
連詩「劣化ウラン」全文は、「広島に文学館を!市民の会」ホームページを参照。
何をしたらよいですか?
―― 劣化ウランV――
御庄 博実(みしょう・ひろみ)
碧紺の空に光る
瑠璃色のモスク
アリババと40人の盗賊たちの
不思議な話を夢のなかで聞いた
―― 少年時代 ――
バクダッドの市場では
盗まれたアラジンのランプが
いまも灯されているか
病院の廊下にさえあふれる白血病の子供たち
処方する薬を持たない医者に何ができますか?
ヒロシマの医者は、58年前、患者さんに何をしましたか?
大学小児科のジョルマクリ先生は言う
答えることのできない質問に
僕の記憶中枢はあの日の閃光に灼かれ
僕は黙って下を向く
若い母親の腕に抱かれた
白血病の子供たちの無心な笑顔
まぶたごと目玉の飛び出した無脳児 水頭症・・・・
机上に広がる異形の写真
凝視しながら 僕は盲目となる
バスラからやって来たアル--アリ先生は言う
処方する薬を持たない医者に
何ができる?
何をしましたか?
何をしたらよいと思いますか?
ヒロシマの医者の答えが聞きたいのです
耳元で囁きつづけるのは
お母さん あなたですか
机いっぱいに広がっている子供たち
やわらかい肌に
僕はそっと掌をあてる
冷たい! 氷の肌に
|
|