WEB 写真展
冊子「ヒロシマ・アピール」より





ガン発症率、湾岸戦争前の10倍に激増

ーアル-アリ医師は訴えるー
(イラク・バスラ教育病院がんセンター長兼教授)
「8・6ヒロシマ国際対話集会 反核の夕べ 2003」の講演から
(8月6日夕方、広島平和記念資料館メモリアルホールにて)

 「今回のイラク攻撃で、A‐10攻撃機から劣化ウラン弾が打ちこまれるのをバスラで目撃しました。湾岸戦争では500〜800トンの劣化ウラン弾が南部国境非武装地帯で使用され、すぐ近くの住民の45%に、放射線によると思われる症状が現れました。今回、バグダッドやバスラなど都市部が劣化ウラン弾で攻撃されましたが、今後発生する事態は想像できないほど深刻です。
 1991年の湾岸戦争以来、イラク全土の汚染は広がっていますが、数年後から癌の発生率が高くなり新生児の先天的知的・身体的障害、流産、死産を多く見るようになりました。それまで大人に多かった癌の発生が、子どもに極端に多く発生するようになりました。湾岸戦争前には見られなかった奇妙な現象―1家族に何人ものガン患者が集中したり、1人の患者が数種類のガンを発症しているなど―が現れています。バスラでは、前回の湾岸戦争前のガン発生率は10万人あたり11人(88年)だったのが、98年75人、2001年116人と激増しています。死亡率も、34人から603人に激増しています。
 イラクの本当の状況を日本のみなさんに知らせたい。本当にイラクで起こっていることのほんの一部に過ぎないにしても。8月6日にヒロシマにやってきて核被害の苦しみを共に分かち合う事が出来ました。私はヒロシマの地で訴えたい。すべての大量破壊兵器の根絶を、そして特定の核保有大国こそ核査察をされるべきです。」
 アル-アリ医師は、英文の解説・統計と自分の患者の写真をスクリーンに写しながら症状の説明をした。劣化ウラン弾による健康被害に関する、臨床医学的な症例報告だったが、眼の奥の腫瘍で一方の眼球が飛び出した男の子、脳の腫瘍が頭と同じ大きさになり頭上を破ってカリフラワー状となって突き出している女の子、白血病末期にあり腹水で極限にまでお腹が膨れ上がった子、骨ガンで一方の足を切断されている7才の男の子といった悲惨な状況で、どの子もやせ細った顔に大きな瞳でこちらに訴えかけてくる。又、出産と同時に生を奪われた「肉の塊」とアリ医師が表現されたような非人間的悲惨の数々・・・・
 絶望と苦悩の表情をにじませて、アル-アリ医師は「軍隊より医者と薬の援助を」と訴え、「このような写真をお見せしたことをお許し下さい」と結んで壇上を降りた。その悲惨な姿を写真であえて晒した自分の患者たちに「すまない」という思いも込めた言葉と受け取った。アル-アリ医師は、「私たちは、ただ単に話をしに来たのではないのです。イラク戦争でも放射能兵器である劣化ウラン弾が使われてしまうような、今の世界のあり方、政治のあり方を変えて欲しいからこそ、こうして日本にやって来たのです」と繰り返していた。
 この子たちの写真と医師たちの訴えの重みは、私たちがアメリカの不法、非道なイラク攻撃を止めることのできなかった慙愧の重みでもある。この重みを、踏みにじられたイラクの民の生きる権利と未来の保証に、日本が決してこれ以上の加害者にならないための行動の力に変えていきたい。〔森瀧春子記〕