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NO DU ヒロシマ・プロジェクト メーリングリストより転載




ウラン238の放射線について

MLの皆さん、川合葉子です。

 

 先日の参議院予算委員会での、福島瑞穂議員の質問をたまたま見ていました。その時はよくわからなかったのですが、吉田正弘さんが議事録を紹介してくださったので、内容がよくわかりました。吉田さん、ありがとうございました。

 結論から言うと、ウラン238からガンマ線が出ています。ビデオ『“悪の枢軸”とは誰のことか』やその後のニュースで紹介されている映像で、線量計で測定しているのは、すべてガンマ線だと思います。私が最初に驚いたのは1991年に破壊された戦車から、10年余りも経って、予想以上の線量が検出されている映像を見たことで、そのことで使用された劣化ウランが大量だったということを納得しました。

 ウラン238が放出する放射線については、日本評論社の『劣化ウラン弾・湾岸戦争で何が行われたか』をお持ちの方は、その中のL. A.ディーツの論文『劣化ウランの散乱と湾岸戦争帰還兵等の汚染』(pp.176-195)が信頼できる文献です。


 ウラン238がアルファ崩壊することはよく知られていますが、この崩壊でもわずかのガンマ線が出ます。そしてトリウム234になり、次にプロトアクチニウム234に、次いでウラン234にと変化していきます。それぞれが放射性物質で、トリウム234とプロトアクチニウム234はそれぞれにベータ崩壊といって、ベータ線とガンマ線を放出します。ウラン234から後は順次にアルファ崩壊を重ねて最後に鉛になって、安定します。このような崩壊連鎖をウラン崩壊系列と呼んでいます。

 ウラン238の放射線としては、最初の3つの物質の放射線が重要で、トリウム234とプロトアクチニウム234の半減期は割合短いのですが、ウラン238の半減期があまりにも長いので、ということは、ウラン238が崩壊するのがとてもゆっくりなので、系列に含まれる物質の半減期がウラン238の半減期と同じになります。そういう状態を永続平衡(あるいは放射平衡)と呼んでいます。

 ディーツは劣化ウラン貫通体などの製造後、ほぼ6ヶ月で永続平衡に達すると書いています。その期間は崩壊が頻繁に起こっているわけで、「劣化ウラン貫通体または戦車用劣化ウラン装甲の製造後、あるいは劣化ウラン破片が人の体内に入った後の6ヶ月間は、劣化ウランからベータ線とガンマ線が常に出て、相当量の被爆が生じる。」「たった1mgの劣化ウランで、1年間に10億個以上のアルファ粒子とベータ粒子およびガンマ線を発生させる。」とも述べています。

これらの放射線の中でも、プロトアクチニウム234から出る高エネルギーのガンマ線が、貫通力が強いので、体内被曝の際にも要注意だと指摘しています。ディーツは、劣化ウランを含むエアロゾルが長距離に達することも、長期間空中に滞留することも指摘しています。また高エネルギーのガンマ線が体内の組織をどう損傷するかというメカニズムについても述べています。私たちにとっては必見の論文ですね。

 そして森瀧さんたちの調査の際に計測されたのも、主として、このプロトアクチニウムからのガンマ線だと推測できます。野外でアルファ線やベータ線が線量系に届くとは考えられません。

 『ヒロシマ・アピール』の23ページに掲載されている星 正治・田中憲一のお二人の「劣化ウラン弾がバグダッド地域で使用されたことの証明」でも、ウラン235とウラン238の存在比率を求めるときに、ウラン238とプロトアクチニウムが放射平衡に達していると判断して、プロトアクチニウムの2種類のガンマ線のピーク値での測定をしておられます。この判断もその後の測定からの評価も、私には納得のいくものでした。このページがあることで、『ヒロシマ・アピール』の主張は、科学的裏付けを得ることが出来たのだと思います。

 以上、ちょっと長い説明になりましたが、ぜひともMLの皆さんには理解していただきたいのです。そして福島瑞穂議員にもお伝えいただきたいのです。劣化ウランについて質問してくださったことに感謝していますし、正確な情報を提供するのが私たちの義務だと思うからです。


 福島議員の質問に戻れば、自衛隊が線量計を携行したことは、劣化ウラン汚染地帯に行くことを政府が認めたことになり、自衛隊員にそういう教育を行ったことを意味していると思えば、悪いことではないと私は思います。しかしながら、石破長官が劣化ウランの危険性を理解していないことは明らかですから、参考にしたというUNEPのファクトシートと、「国内でも広く使われている」という使用の実態の一覧表を国会に提出させてもらいたいなと思います。本当かどうかと私は疑っています。そしてウラン兵器の危険性について、科学者と相談しながら、これからもしっかりと追及していただきたいと思っています。

 今イラクに行っている自衛隊員は誰も殺さず、誰も殺されずに、一日も早く無事に帰国してほしいと私も心から思っています。そしてこれ以上一人も行かないでほしいと思っています。

 念のためですが、外傷からでも体内被曝は起こりえます。調査に行かれる方はくれぐれもお気をつけ下さい。


 以上の説明で、劣化ウラン兵器が、核(分裂)兵器と違って、放射線兵器と呼ばれる理由も納得していただけると、私はうれしいです。