IPPNWヨーロッパ会議(ベルリン、2004年5月)

講演:森瀧春子
「―ヒロシマからのアピール―
劣化ウラン被害に関する国際的調査を求めて」


  


[IPPNWヨーロッパ会議(ベルリン、5月7〜9日)での講演の元となった日本語原稿]

―ヒロシマからのアピール―
劣化ウラン被害に関する国際的調査を求めて

森瀧 春子/NO DUヒロシマ・プロジェクト



「NO DU ヒロシマ・プロジェクト」の調査団の一員として、昨年六月から七月にかけて二週間、イラクを訪ねました。私にとっては戦争前の2002年12月につづいて二度目のイラクでした。

劣化ウラン弾は、1901年の湾岸戦争では主に砂漠で使われたのですが、今回は人口の密集した都市部で使われたと言う事で、その証拠をつかむことが調査の大きな目的でした。
戦争の跡が残っている間に、占領統治の確立しない間にということで急いで行きました。
いまもあまり変わっていないようですが、当時、イラクでは電気系統が破壊されたまま、温度計が50度を超えて振り切れるほどの暑さのなかで、病院にはエアコンもないので、とうぜん衛生状態も悪く、ハエがぶんぶん飛んでも追い払う力もない子どもの顔にとまったままになっている状況に、私は広島の原爆投下後の惨状の中で被爆者たちにウジがわいた話を思い出しました。

劣化ウラン弾によるヒバクシャが無数に生み出されているイラクの現状に放射線被害の惨禍を知るヒロシマから放射能兵器・劣化ウラン弾禁止のためのアピールを発してゆかなくてはという思いから、ヒロシマではさまざまな取り組みをしてきました。イラク戦争反対闘争においては、NO WAR(戦争反対)だけでなくNO DU(劣化ウラン弾反対)をアピールした”NO WAR NO DU!”を6000人による人文字で描き、その空撮写真を「ニューヨークタイムズ」への意見広告としてアメリカ、ホワイトハウスに訴えたり、これまで冊子「NO DUヒロシマ・アピール」日英語版を出版し、15000冊を国内外に頒布してきました。
今さらに、アラビア語版を出版する計画を進めています。劣化ウラン弾の被害はイラクのみならずアラブ世界に深刻な影響を与える可能性があります。
世界中の民衆の声を踏みにじったアメリカは、イラク戦争において、当然のように劣化ウラン弾をイラク全土に大量に使いましたが、劣化ウラン弾の放射能の影響を認めないアメリカに対し、科学的な証明を提示して使用禁止を迫るため、私たちは[イラク戦争被害・劣化ウラン弾被害調査団]として2003年6月?7月にイラクに入ったのです。

イラク全土で各種サンプルを的確に採集することが活動の大半をしめました。これは放射線医科学の権威である広島大学の原爆医科学放射能研究所のアドバイスを得て、まず爆撃された各地を2種類の放射線測定器で測定し、全国13箇所の爆撃跡から、一定量の土壌を採集、また、破壊された戦車の上のチリを濾紙により採集し,バンカーバスタ?爆撃によると思われるクレーターなどに溜まった水や水道水などを採集しました。そして、人体に取りこまれた劣化ウランを証明するための一人24時間分の尿22人分を採集しました。尿はバグダッドとバスラの病院の医師達の協力のもと、白血病や悪性リンパ腫の子ども8人白血病の3人の子どもとその両親の12人、爆撃された跡の生々しい地区周辺の住民などの尿です。持ち帰ったそれらのサンプルは、広島大学・原医研および金沢大学に分析を依頼しました。

私たちは放射性微粒子の吸入や付着を避けるため、50度を越える灼熱の中でも全身をビニールや防塵マスクでおおった「完全武装」で調査しました。
劣化ウラン弾が集中的に使われた地区にいってみると、市場の真ん中に爆撃された戦車が放置されています。その上に子どもたちが乗って遊んでいます。私たちが行くと、戦車で遊んでけがをした子を連れた親が、医者でもない私たちに「心配だから診てくれ」と言ってきます。米軍に戦車をどけてくれるよう住民が頼んでもらちがあかないそうです。
持ち帰った土壌、チリ、尿など諸サンプルのうち、「チリ」サンプルについては、広島大学の原医研(原爆放射線医科学研究所)で、一つの濾紙サンプル(バグダッド近郊都市で採集)の分析から、ウラン235の存在比率が0.15%という結果を得て、劣化ウランにおけるU238の存在比率と一致する、即ち、劣化ウラン弾が使用された、しかも都市部の真ん中でということを証明しました。

ヒロシマが持ち帰り検査された、イラクの白血病及びリンパ悪性腫瘍の子どもの24時間分の尿サンプルの一部の分析結果であるが、尿1リットル当たりのU238の濃度は、急性リンパ性白血病の子どもの251.0ナノグラムを最高に196ナノグラム、195ナノグラム、149ナノグラム、127ナノグラムと尿18例の分析のうち100ナノグラム以上の濃度で含有する症例が5例あり、日本人平均の13倍から25倍、平均で72.6ナノグラムというかなり高い数値を示しています。

最高値を示した女の子の住居は被弾地点から50メートル、他の病児たちも爆撃地点から100メートル以内などであり、又親子一家で、149から196ナノグラムという高いウラン濃度を示した例はバスラの爆撃が激しかった地点に住んでいます。
人体の尿に排出されるウランの濃度が高いということは、劣化ウラン弾の微粒子を体内に吸入し、長期にわたって周辺の細胞組織が被曝しつづけるということで、白血病などの誘因となっていると思われます。
尿の分析は、金沢大学低レベル放射能実験施設で分析される途中の結果であり、残念ながら、未だU235とU238no存在比率が分析困難という状態にとどまっています。
今後の課題として早期にすべてのサンプルの分析を完成してWHOやUNEPによる本格的な調査を引き出す手段としてゆきたいと思っている。WHOなどへのアメリカの圧力を許さないためにも、科学的なデータで迫ることが求められている。

 日本は被爆国で、その比類なき非人間的体験から核絶対否定を世界に訴えてきました。
とくにヒロシマには義務があると思います。私は被爆者ではありませんが、幼いころから父をはじめ被爆者の苦しみを身近に見て育ちました。広島では1945年末までの14万人といわれる原爆犠牲者だけでなくその後59年の間、毎年多くの被爆者が放射能の後障害によって、亡くなっていきます。ヒロシマはヒバクシャが増え続けることに黙っていることは出来ません。
核兵器廃絶と共に放射能兵器・劣化ウラン弾の廃絶のため、世界各地多くの人たちが取り組んでいる運動をリンクし世界民衆の連帯の輪を広げてゆきましょう。(了)