国際キャンペーン始まる!

国際キャンペーン始まる!

嘉指信雄(かざしのぶお)
NO DU ヒロシマ・プロジェクト代表

 昨年の10月10〜12日、ベルギーのベルラールで、劣化ウラン兵器禁止を求める国際的な「連合」の結成に向けた準備会議が開かれた。

 ブリュッセルから汽車で一時間程のところにある小さな町ベルラールは、聞けば、第一次世界大戦の激戦地イーパーもそんなに遠くなく、フランドル地方の「ラディカル平和主義」の伝統が息づいていて、第一次大戦戦没者を慰霊する「平和マラソン」が毎年行われるとのこと。ベルラール会議も、出版会社の経営から引退したばかりのデ・フォンス氏が自邸を提供してくれることで可能となった。

 ベルラール会議は、すでに十数年にわたり、劣化ウラン弾問題に取り組んできているダマシオ・ロペス氏などの呼びかけで実現したものだ。ロペス氏は、劣化ウラン弾試射場のある米国ニューメキシコ州ソッコロ市出身の活動家で、「国際劣化ウラン研究チーム」の代表でもある。ラムゼー・クラーク氏とともに市民調査団としてイラクを訪問した経験もあり、国連や各国政府機関などへの報告・勧告を数多くしてきている。(参照:田城明著『知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態』大学教育出版)

 ベルラールには、世界八ヶ国(ベルギー、ドイツ、日本、マルタ、オランダ、スイス、英国、米国)から平和活動家や専門家など約三十名が集まった。この中には、イギリスの「CADU=劣化ウラン反対キャンペーン」、アメリカの「軍事毒物プロジェクト」、「IALANA=反核国際法律家協会」ドイツ支部のメンバーなどに加え、アメリカのテネシー州メンフィスにある兵器貯蔵庫の周辺に住み、ガンや先天性異常の発症率の増加といった深刻な状況に直面している二十代の女性や、劣化ウラン弾製造工場があったマサチューセッツ州コンコードで、劣化ウラン弾問題に取り組んできている高齢のご婦人なども含まれていた。私自身は、一昨年一二月、イラクに派遣された「市民平和使節・調査団」に参加した際、アメリカ人として唯一人参加したロペス氏と親しくなっていたこともあり、「NO DU ヒロシマ・プロジェクト」代表として参加することとなった。

 三日間の会議では、国際的キャンペーンを具体的に進めてゆくためのワーキング・グループ、事務局体制や財政的問題も含めて話し合われた。その結果、最終日には「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(ICBUW=The International Coalition to Ban Uranium Weapons)の設立が宣言され、ウラン兵器の全面的禁止、汚染地域の除染、および被害者への補償を目指す「国際キャンペーン」への参加を呼びかける「ミッション声明」が採択された。

 なお、「劣化」ウランという名称は、放射線の害がないかのような誤った印象を与えるため、キャンペーンの名称には、「ウラン兵器」という表現が使われることとなった。しかし、「劣化ウラン」という名称は、広く使われてきているので、この名称を聞き慣れている人々に無用の混乱を引き起こさないようにするため、適宜必要に応じて使うこととされた。

 ちなみに、現在、劣化ウラン兵器を保有する国の数は、少なくとも二十カ国程にのぼると言われている。アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ロシア、ギリシャに加え、トルコ、ヨルダン、イスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連合、クウェート、バーレーンなどの中東諸国、さらに、パキスタン、タイ、韓国、台湾などのアジア諸国である。さらにオーストラリアは、最近、劣化ウラン弾装備可能なエイブラムスM1戦車をアメリカから購入することを決定したと報じられている。放射能兵器=劣化ウラン弾は、すでにかなり「拡散」してしまっており、例えば、パレスチナでも、2000年末、インティファーダが再び激しくなった頃、イスラエルによって使用されているとパレスチナ自治政府内務大臣が発言し、問題となったことがある。(「パレスチナのヒロシマ(Palestinian Hiroshima)」の見出しで、この発言を報じた「エルサレム・ポスト」(一二月一九日付)の記事を参照。)また、アメリカの劣化ウラン兵器製造工場や射爆場周辺に限らず、韓国の離島・梅香里(メヒャンニ)演習場でも、劣化ウラン弾による汚染被害が以前から取り沙汰されてきている。日本でも、一九九五年末から翌年の初めに、米軍が射爆場のある沖縄の鳥島で一五二〇発の劣化ウラン弾を「誤射」していたことが、約一年後に発覚して問題となった。劣化ウラン弾問題は、焦眉の地球的問題である所以だ。

 「国際キャンペーン」の開始は、ベルラール会議の翌週、ハンブルクで開催された「世界ウラン兵器会議」においても公表され、今までに30を越える団体がキャンペーンへの賛同を表明している。アメリカの「平和を求める退役軍人会」マサチューセッツ州支部、「IPPNW=核戦争防止国際医師会議」スイス支部、イタリアの「ピースリンク」、イギリスの「バートランド・ラッセル平和基金」、フランスの「平和と自由を求める国際婦人連盟」などに加え、コソボ、ウクライナ、ルーマニア、インド、パキスタン、ニュージーランドなどからも様々な団体が賛同を寄せており、日本からも「ヒバク反対キャンペーン」、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」など七団体が呼びかけ・賛同団体として加わっている。(声明および禁止条約案、呼びかけ・賛同グループなどの詳細については、ICBUWや「NO DU ヒロシマ・プロジェクト」のホームページを参照)

 ICBUWは、総力をあげた国際キャンペーンの開始を画するため、今年五月十四日?十五日、ブリュッセルで第二回会議を開く予定であるが、その前の週にベルリンで開催される「核戦争防止国際医師会議」ヨーロッパ会議(IPPNW European Congress)でも、劣化ウラン弾問題についてのセッションがICBUWによって主催されることとなった。これらの会議には、クリス・バズビー氏などの科学者に加え、イラクのアル-アリ医師やジョナン医師も招待されている。日本からも多くの方の参加が期待される。(2004年4月記載)