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ラットを使った劣化ウラン微粒子吸入実験:遺伝子毒性及び炎症性の影響
 マージョリー・モンロー(実験放射線毒性学研究所、フランス)他
Genotoxic and inflammatory effects of depleted uranium particles inhaled by rats.
Monleau M, De Meo M, Paquet F, Chazel V, Dumenil G, Donnadieu-Claraz M.

NODUヒロシマ・プロジェクトMLより転載

                 2006年1月22日
皆様

 ラット(実験用マウス)を用いた劣化ウラン微粒子吸入実験についてのニュースです。これは、科学ジャーナルのToxicological Sciences 89号のインターネット版に、2005年10月12日に発表されたもののようです。

 論文そのものは、きわめてテクニカルなものですが、ヒバク反対キャンペーンの振津かつみさんによりますと、「酸化ウランの微粒子の吸入実験は、そのような微粒子を作り出すこと自体が通常は困難なので、どこの研究所でもできるというものでもなく、それだけでも非常に貴重な実験結果と思われる」とのことです。
 多くの専門家の方々にご検討いただけたらと思います。

              嘉指信雄(NO DU ヒロシマ・プロジェクト)

***

Toxicological Sciences 89(1), 287-295 (2006)―Published by Oxford University Press on behalf of the Society of Toxicology.

Advance Access publication October 12, 2005

ラットを使った劣化ウラン微粒子吸入実験:遺伝子毒性及び炎症性の影響

 マージョリー・モンロー(実験放射線毒性学研究所、フランス)他

「 概要:
劣化ウラン(DU)は、原子力産業から生じる放射性重金属であり、様々な形で軍事的に応用されている。ウランの吸入は、肺における線維症と腫瘍形成を引き起こしうる。
こうした病理学的影響をもたらす分子過程に関してはあまり知られていないので、吸入によりDUに被曝したラットを用いて、遺伝子毒性と炎症性の観点から研究を行った。
私たちの結果が示すところでは、吸入によるDU被曝は、気管肺胞洗浄(BAL)細胞におけるDNA鎖の切断、そして、肺細胞における炎症性サイトカインの発現およびヒドロペルオキシドの生産の増加を引き起こす。このことは、DNA損傷は、部分的には、炎症過程および酸化ストレスに由来することを示唆している。こうした影響は、吸入量と関係しているものの、ウラン化合物の水溶性如何には関係なく、また、吸入のタイプと相関している。反復して吸入させると、BAL細胞、また腎細胞においても、作用が増強されるようである。中性条件におけるコメットアッセイの結果、BAL細胞におけるDNA損傷は、部分的には、二本鎖切断によるものであることが明らかとなった。
このことは、生体内におけるDUの遺伝子毒性には放射線が関与していることを示唆している。生体内における、これら全ての結果は、DU吸入の病理学的影響に関する、より良い理解に貢献するものである。(概要試訳:振津かつみ・嘉指信雄)

[注1]:BAL細胞というのは、気管にチューブを挿入して水(通常は生理食塩水)を入れて洗浄し、回収した洗浄液に含まれる細胞のことです。剥離した肺胞、気管の上皮細胞や、誘導された炎症細胞が含まれています。ヒトでも気管鏡の検査をしてこのような肺胞洗浄細胞を回収し、肺疾患の診断を行うことがあります。(振津)
[注2]:「コメットアッセイは、1984年に開発された細胞障害検査であり、個々の細胞におけるDNA損傷を検出する技術として放射線研究以外にも紫外線や酸化ダメージ、薬剤の研究に用いられています。」(放医研ニュースより)
http://www.nirs.go.jp/report/nirs_news/200507/hik03p.htm

 なお、振津かつみさんは、「この実験ではフランスのウラン燃料工場内で採取した劣化ウランを用いています。工場の労働者も常にこのような有害物質に暴露される環境の中で働いている…ということになります。このような実験モデルを使って、吸入された酸化ウランの微粒子の体内動態や、他の臓器の発ガン、生殖毒性などについても検討していく必要があります。疫学調査とあわせて、このような基礎的な実験を積み重ねることも大切だと思います」と書いてきています。

[以下、概要原文]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_ui
ds=16221956&dopt=Citation



Genotoxic and inflammatory effects of depleted uranium particles inhaled by rats.

Monleau M, De Meo M, Paquet F, Chazel V, Dumenil G, Donnadieu-Claraz M.

IRSN/DRPH/SRBE, Laboratoire de Radiotoxicologie Experimentale, BP 166, 26702 Pierrelatte Cedex, France.

Depleted uranium (DU) is a radioactive heavy metal coming from the nuclear industry and used in numerous military applications. Uranium inhalation can lead to the development of fibrosis and neoplasia in the lungs. As little is known concerning the molecular processes leading to these pathological effects, some of the events in terms of genotoxicity and inflammation were investigated in rats exposed to DU by inhalation. Our results show that exposure to DU by inhalation resulted in DNA strand breaks in broncho-alveolar lavage (BAL) cells and in increase of inflammatory cytokine expression and production of hydroperoxides in lung tissue suggesting that the DNA damage was in part a consequence of the inflammatory processes and oxidative stress. The effects seemed to be linked to the doses, were independent of the solubility of uranium compounds and correlating with the type of inhalation. Repeated inhalations seemed to induce an effect of potentiation in BAL cells and also in kidney cells. Comet assay in neutral conditions revealed that DNA damage in BAL cells was composed partly by double strands breaks suggesting that radiation could contribute to DU genotoxic effects in vivo. All these in vivo results contribute to a better understanding of the pathological effect of DU inhalation.
PMID: 16221956 [PubMed - in process]