皆さまへ
ベーバーストック博士の「ウラン兵器禁止を求める国際連合」
(ICBUW)年次総会のパネルでの発言の訳を投稿致します。
博士の専門は疫学で、その分野から放射線影響の評価に長年たずさわっ
てこられた方です。
WHOなどで、劣化ウランの危険性を示す科学的な文献などを評価するよ
うにとの主張が受け入れられなかったことを強く非難されていました。
すでにこれまでに発表されている科学的知見からだけでも、ウラン兵器
の危険性は明らかであり、予防原則の立場からも対策が求められるとい
うという発言です。
博士自身の見解は、近いうちに独自に国際科学雑誌(どこの雑誌かは未
定)に論文として投稿する予定とのことでした。
ベーバーストックさんのような科学者が、ウラン兵器禁止の運動にも
(あくまでも「科学者として中立的に」というオブザーバー的な立場で
すが)一定のかかわりを持つようになったということは、注目すべきこ
とだと思います。今後も、科学的にオープンな論争がなされることを期
待したいです。
振津かつみ
(「ヒバク反対キャンペーン」DU担当)
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「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(ICBUW)第二回年次総会
(於:欧州議会)
パネルディスカッション(2005年6月23日)での報告より
キース・ベーバーストック博士(クォピオ大学環境科学部、フィンラン
ド)の発言
私は過去30年ほどの間、数多くの様々な状況下での電離放射線と放射
性物質による環境と職業被曝のリスク評価に専門的に携わってきまし
た。私は、英国の医学調査委員会(1971-1991年)と、世界
保健機構(WHO)の欧州地域事務局(1991-2003年)の職員
として調査研究を行ってきました。これらの組織はいずれも、表向きは
「独立した」機関です。
2000年から2002年にかけて私は、軽度に放射性のある劣化ウラン
のリスクに関する証拠についての調査を行いました。劣化ウラン弾は強
固な標的にあたって燃え上がると、酸化ウラン(DUO)の微細な粒
子を生じます。そのようなチリ状の粒子を吸入するという状況下での特
殊な被曝に私は関心を持ちました。このような物質(酸化ウランの微細
粒子)と同じようなものは自然界にはありません。また核燃料製造ため
の通常のウラン精錬・加工でもそのような状態のものはできてこないの
です。だから、1991年にイラクで使用されるまでは、このような
物質への暴露の事例はありませんでした。
国際放射線防護委員会(ICRP)によれば、吸入された酸化ウラン
は、もしそれが不溶性であれば肺に対して放射線が作用し、水溶性であ
れば腎臓に対して化学毒性(腎機能障害をもたらす生理学的毒性)が、
危害を与えるだろうとされています。
酸化ウランは、実は、不溶性の部分と、わずかに溶ける部分(難容性)
とがあります。実験では、低濃度の劣化ウランに細胞を暴露させると悪
性化します。たしかに、劣化ウランを実験動物の体内に埋め込むと悪性
腫瘍が生じるといった知見もあります。このような研究結果が、
1988年以降、次々と発表されているのです。これらの実験のような低濃
度と、与えられた実験条件下で観察された影響は、放射線によって引き
起こされたとはどうも考えにくいのです。むしろ、化学的な作用による
遺伝毒性によるものだと思います。(文献1−6の例を参照のこと。
ニッケルのような非放射性物質も、同様の作用を引き起こします。ニッ
ケルは発ガン性物質として認められているものです。)
2001年にこれらの知見を知り、私は、吸入によって肺の深部にまで入り
込むことができる酸化ウランの粒子(そこに長期間留まる)は、何週
間、何ヶ月間も、放射能毒性の危険だけでなく、化学毒性の危険、そし
ておそらくは両者の相乗作用をも、もたらさすだろうと確信するように
なりました。従って、ICRP勧告に基づくいかなるリスク評価も、
おそらく本当のリスクを過小評価しているだろうと思います。
さらには、劣化ウランはアルファー線を放出する軽度放射性の物質です
が、いわゆる「バイスタンダー効果」によって危険性がさらに高まる可
能性もあります(文献7、8の例を参照のこと)。アルファー粒子の
「攻撃を受けた」ひとつの細胞が、周囲の細胞にシグナルを送ると、そ
れらの細胞も被曝したかのようにふるまうようになるのです。周辺細胞
への影響が優位になれば(例えばアルファー粒子の低線量被曝)、バイ
スタンダー効果は「放射線影響」を増幅するように作用します。
このように、酸化ウランについて詳細に検討すると、従来から言われて
いた直接的な被曝による放射能毒性に加えて、さらに3つの危険を引き
起こす経路が明らかになってきました。つまり、化学毒性、放射能毒性
と化学毒性の相乗効果、そしてバイスタンダー効果による経路です。
2002年以降、これらの3つの経路についての証拠はなくなってしまうど
ころか、むしろその反対です。より多くの最近の研究がこれまでの研究
が正しかったことを確認するものになっており(文献9、10)、患者
の放射線治療におけるバイスタンダー効果への関心も高まっています。
さらに、誤爆によって劣化ウランの破片が体内に埋め込まれてしまい、
尿中劣化ウラン濃度も高くなっている米国退役軍人では、末梢の血球細
胞における劣化ウランの変異原性の可能性も示されています(文献1
1)。
このような証拠を無視し続けることは、非常に無責任なことだと私は思
います。予防原則の適用を求める圧倒的な証拠がありますし、それは少
なくとも戦場の酸化ウランの除染が必要であることを示しています。イ
ラクでは問題は特に深刻です。乾燥した気候の下では、長期にわたっ
て、酸化ウランの粒子が難容性の成分に留まり、再浮遊と吸入が最大限
行われるような状況が促進されます。
まず初めに危険にさらされる臓器は肺です。しかし、肺で溶解した劣化
ウランは、まず骨に溜まって、骨髄腔に入り、その化学的遺伝毒性の能
力により白血病を引き起こす可能性があります。全身の劣化ウランは腎
臓から排泄されますが、その腎臓がまた遺伝毒性によるもうひとつの標
的臓器ともなります。このように、酸化ウランの吸入による被曝によっ
て、多くの組織の悪性腫瘍が引き起こされる可能性があるのです。
WHO、国際原子力機関(IAEA)、英国王立協会(RS)、
ICRP、欧州委員会31条(「欧州原子力共同体」条約)グループは、
2001年以降、劣化ウランへの暴露による健康影響に関する勧告を発表し
てきました(文献12−16)。このような権威ある独立の機関が、表
向きは「独立の」状況評価をし、科学的文献に現に報告されている証拠
を全て無視するなどということを、いったいどうしてすることができた
のか、私と同じく、皆さんも不思議に思われるでしょう。
これらの評価は、実は本当に独立したものとはいえないかもしれませ
ん。例えば、英国国立放射線防護評議会(NRPB)のスタッフは、
WHOやRSの報告にも関与していることは周知の事実ですし、
ICRPの議長は最近までNRPBの議長でした。NRPBのスタッフ
はIAEAと共同で仕事をしていますし、31条グループのメンバー
にもなっています。だから、ごく少数の個人が、これらのいわゆる独立
に行われた評価の結果に影響を与えたということも十分ありうるのです。
科学者である私にとっては、この証拠が無視されたということは明らか
な事実です。その証拠に言及することを反対され、危険性を懸念する理
性的な科学論争の中で、信用されることがなかったのですから。科学
は、政治的ご都合主義には応じない真実を求めるものです。この証拠を
無視すれば、劣化ウランの暴露による健康影響を軽減することにはなり
ません。影響を調査しないことは、影響がないということとはわけが違
います。マーク・ダナーは(文献17)、最近のNew York Review of Books の
中で、「(政治的)権力は、真実を造り上げることができる。
権力が最終的には真実を、あるいは、少なくとも大多数の人々が受け入
れることのできる真実を、決定するのだ。」ということを最近改めて認
識したと書いています。彼はさらに、かなり率直に、「前世紀で最も革
新的だった権力の権威」として、ジョセフ・ゲッペルス(訳注:ヒット
ラー政権の宣伝相)に言及しています。
「民主主義が喉を潤すための井戸に政治が毒を投げ入れた。」という私
の発言が記録に残されています(文献18)。政治的ご都合主義は、真
に独立した研究を排除し、そのことによって大衆の信頼を得ようとする
もの他ならないということを、この言葉でお伝えしたいのです。大衆の
信頼を得ることなしに、民主主義は成り立ちません。リスク評価におい
ては、科学は、覆い隠すことなく、誰の目にも明らかなように、証拠を
示すべきです。そして、結果が真実であるということだけに関心を持つ
べきです。このような証拠に基づいて、その時代の社会的・法的状況の
中で受け入れられるリスクを政治が決めるべきなのです。
参考文献:
1. Miller, A.C., et al., Urinary and serum mutagenicity studies with rats implanted with depleted uranium or tantalum pellets.
Mutagenesis, 1998. 13(6): p. 643-8.
2. Miller, A.C., et al., Transformation of human osteoblast cells to the tumorigenic phenotype by depleted uranium-uranyl chloride.
Environ Health Perspect, 1998. 106(8): p. 465-71.
3. Miller, A.C., et al., Urinary and serum mutagenicity studies with rats implanted with depleted uranium or tantalum pellets.
Mutagenesis, 1998. 13(6): p. 643-8.
4. Miller, A.C., et al., Observation of radiation-specific damage in human cells exposed to depleted uranium: dicentric frequency and neoplastic transformation as endpoints. Radiat Prot Dosimetry, 2002.
99(1-4): p. 275-8.
5. Miller, A.C., et al., Depleted uranium-catalyzed oxidative DNA
damage: absence of significant alpha particle decay. J Inorg Biochem, 2002. 91(1): p. 246-52.
6. Miller, A.C., et al., Potential late health effects of depleted uranium and tungsten used in armor-piercing munitions: comparison of neoplastic transformation and genotoxicity with the known carcinogen nickel. Mil Med, 2002. 167(2 Suppl): p. 120-2.
7. Mothersill, C. and C. Seymour, Radiation-induced bystander
effects: past history and future directions. Radiat Res, 2001. 155
(6): p. 759-67.
8. Belyakov, O.V., et al., Direct evidence for a bystander effect of ionizing radiation in primary human fibroblasts. Br J Cancer, 2001. 84
(5): p. 674-9.
9. Miller, A.C., et al., Effect of the militarily-relevant heavy metals, depleted uranium and heavy metal tungsten-alloy on gene expression in human liver carcinoma cells (HepG2). Mol Cell Biochem, 2004. 255(1-2): p. 247-56.
10. Miller, A.C., et al., Genomic instability in human osteoblast cells after exposure to depleted uranium: delayed lethality and micronuclei formation. J Environ Radioact, 2003. 64(2-3): p. 247-59.
11. McDiarmid, M.A., et al., Health effects of depleted uranium on exposed Gulf War veterans: a 10-year follow-up. J Toxicol Environ Health A, 2004. 67(4): p. 277-96.
12. WHO, Depleted Unanium: Sources, Exposure and Health Effects.
2001, World Health Organisation: Geneva.
13. Bleise, A., P.R. Danesi, and W. Burkart, Properties, use and health effects of depleted uranium (DU): a general overview. J Environ Radioact, 2003. 64(2-3): p. 93-112.
14. RS, The health hazards of depleted uranium munitions Part II, in Policy Document. 2002, The Royal Society: London.
15. Valentin, J. and F.A. Fry, What ICRP advice applies to DU?
International Commission on Radiological Protection. J Environ Radioact, 2003. 64(2-3): p. 89-92.
16. EC, Depleted Uranium, in Opinion of the Group of Experts Established According to Article 31 of the Euratom Treaty. 2001, European Commission: Luxembourg.
17. Danner, M., The secret way to war, in The New York Review of Books. 2005. p. 70 - 74.
18. Baverstock, K., Science, politics and ethics in the low dose debate. Medicine, Conflict and Survival, 2005. 21: p. 88 - 100.
訳注:ここで使われている「遺伝毒性」という言葉は、文脈からして、
「発がん性」という意味で、体細胞の遺伝子の損傷などを引き起こす毒
性のこと。「変異原性」も同様の意味で使われている。次世代への「遺
伝的影響」(継世代影響)について言及しているのではない。
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英文の報告文は下記です。
PRESENTATION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT (23 June 2005) Keith Baverstock
PhD; Department of Environmental Sciences, University of Kuopio, KUOPIO,
Finland
I have, during a career of some 30 years, developed expertise in evaluating risks regarding the environmental and occupational exposure to ionising radiation and radioactive materials in many different situations. I have done this in the context of employment by the UK Medical Research Council (1971 to 1991) and the European Regional Office of the World Health Organisation (1991 to 2003), both ostensibly “independent” organisations.
Between 2000 and 2002 I examined the evidence relating to risks from the mildly radioactive depleted uranium. My concern was especially raised by the specific exposure context of inhalation of the dust particles produced when a depleted uranium munition impacts a hardened target and burns, producing fine particles of DU oxide (DUO). This material has no natural analogue and does not arise in the normal refining and processing of uranium for nuclear fuel. There is, therefore, no prior experience of exposure to this material than its use in Iraq in 1991.
According to the International Commission for Radiological Protection (ICRP), inhaled DUO would pose a hazard to the lung from radiation if it were insoluble and a chemical toxicity risk to the kidney (physiological toxicity of kidney malfunction) if it were soluble.
DUO is in fact part insoluble and part sparingly soluble. Since 1998 evidence has accrued that human cells exposed in the laboratory to low concentrations of DU exhibit changes characteristic of malignant cells and indeed, when implanted into host animals, will lead to malignancy. In these experiments it seems unlikely, given the low concentrations and the experimental conditions, that this effect is mediated by radiation, but is rather a chemically mediated genotoxicity. (See for example 1-6 The non-radioactive element, nickel, produces similar effects and is an established carcinogen.
In 2001 this evidence led me to believe that inhaled DUO particles, which are capable of penetrating the deep lung (where they would be retained for long periods) posed, for a period of weeks to months, not only a radiotoxicity risk but also a chemical genotoxicity risk and potentially a synergy between the two. Thus any risk evaluated on the basis of the ICRP recommendations would be likely to underestimate the true risk.
In addition, that DU is only mildly radioactive through alpha emission, raises the possibility of a further risk route mediated by the so called “bystander effect”. (See for example; 7,
8) Here a single cell “hit” by an alpha particle sends signals to surrounding cells causing them to behave as if they had been irradiated. In circumstances where bystanders predominate (low dose exposure to alpha particles for example) the bystander effect acts to amplify the “radiation effect”.
Thus, detailed examination of DUO reveals three potential risk routes in addition to the conventional radiotoxicity caused by direct irradiation, namely, chemical genotoxicity, synergy between radiation and chemical toxicities and a bystander route.
Since 2002 the evidence for these three routes has not diminished, indeed the reverse is the case. More recent studies have confirmed the earlier studies 9, 10 and concern about the bystander effect in radiotherapy patients continues to rise.
Furthermore, US veterans with DU embedded in their bodies as a result of friendly fire incidents and with high concentrations of DU in their urine, show further evidence of DU’s mutagenic potential in their peripheral blood cells 11.
In my view it is highly irresponsible to continue to ignore this evidence. There is an overwhelming case for the application of the precautionary principle and that, at the very minimum, would require that DUO is cleaned up at battle sites. The problem is particularly severe in Iraq where arid climatic conditions allow DUO particles to retain the sparingly soluble component that primarily gives rise to the extra risk routes, over long periods and promotes conditions in which re-suspension and inhalation are optimised.
The organ primarily at risk is the lung, but DU dissolved in the lung will locate initially in the bone, entering via the bone marrow cavities where it can give rise to leukaemia through its chemical genotoxic potential. The kidney, through which all systemic DU is excreted is another potential target tissue, again from the genotoxic potential. Thus, exposure through inhalation to DUO has the potential to cause malignancy in a number of tissues.
A number of organisations, including the World Health Organisation 12, the International Atomic Energy Agency 13, the UK Royal Society 14, the International Commission on Radiological Protection 15 and the European Commission Article 31 Group 16 have, since 2001, published advice relating to the health consequences of exposure to DU. You may wonder, as I do, how such authoritative and independent Organisations, making ostensibly “independent”
assessments of the situation can all ignore the evidence that exists in the scientific literature.
It is worth noting that these assessments may not in fact be truly independent. For example, staff of the UK National Radiolgical Protection Board (NRPB) are acknowledged as contributing to the WHO and RS reports, the Chairman of the ICRP was recently the Director of the NRPB. Staff members of the NRPB collaborate with the IAEA and have been members of the Article 31 Group. It is, therefore, possible that a few individuals have influenced the outcome of these so called independent assessments.
For me, as a scientist, it is the fact that this evidence is IGNORED, as opposed to being ADDRESSED and if appropriate discredited, through rational scientific debate that is worrying. Science is about a reality that over-rides political expediency. Ignoring the evidence does not mitigate the health consequences of exposure to DU and not looking for the consequences does not mean they do not exist. Mark Danner 17, writing in the New York Review of Books recently, detects a currently resurgent belief that “Power, [political power] ….. can shape truth: power in the end can determine reality, or at least the reality that most people will accept.”
He further notes that that this was stated rather directly by the “last century’s most innovative authority on power”, Joseph Goebbels.
I am on record 18 as saying that “politics has poisoned the well from which democracy must drink.” By this I mean that political expediency has all but eliminated truly independent research and along with that went PUBLIC TRUST. Without public TRUST democracy cannot work. In the context of risk assessment SCIENCE should provide the evidence, openly and transparently, and unalloyed with any interest in the outcome except that it be the truth. On the basis of this evidence POLITICS should decide the risk that is acceptable within the social and legal context of the time.