「劣化ウランは胎盤を通過してしまう」(「核政策研究所」報告書より)
―「原子力文化振興財団」パンフレットの誤り―
2004年10月18日
「NO DU ヒロシマ・プロジェクト」の嘉指です。
10月18日付け朝日新聞東京版は、「劣化ウランの”安全性”を論じたプレスリリースに誤りがあったことを原子力文化振興財団が認めた」という趣旨の記事を掲載しています。(http://www.asahi.com/national/update/1017/019.html)
ただ、「劣化ウランが胎盤を通過してしまうかどうか」に関しては、朝日の記事では、「原文も、「ウランが母乳に濃縮するとは考えにくい。胎盤を通じて胎児に移行するかどうかは分からない」と、より慎重な表現だった」という形で問題にされていますが、ワシントンの「核政策研究所」が昨年7月に出した報告書では、「劣化ウランは胎盤を通過してしまう」という、米軍の「放射線生物学研究所」(AFRPI)の研究で出された結論がクローズアップされています。
これは、『ヒロシマ・アピール』の「ホワイトハウスへの反論」の中でも引用したものですが、こういった報告がもっともっと広く知られる必要があると、今回改めて思いました。(広島でも、原文振パンフレットに関しては、徹底した形で反論しないといけないと話をしているのですが、対応ができないままでいます。11月7日、マッド・アマノさんに来て頂く「国際行動デー集会」の時に、併せて少しでも問題に出来たらと思っています。)
以下、『ヒロシマ・アピール』から該当個所を拾い出してみます。皆さんにご参考にしていただけたら幸いです。
***
(『劣化ウラン弾禁止を求めるヒロシマ・アピール』13〜14頁、英語版でも13ー14頁。)
アメリカ政府は、特定の調査結果だけを根拠にして、劣化ウラン兵器の安全性を強弁している。しかし、そうした調査結果がいかに不十分で偏ったものか、多くの専門家が指摘している。例えば、ワシントンの「核政策研究所」は、2003年7月に発表した報告書「劣化ウラン―危険性評価の科学的根拠」の中で、次のように、端的に反駁している。
「1993年1月、合衆国会計検査院(GAO)の研究は、「吸入された不溶性酸化物は、より長く肺に残り、放射線による発ガンの可能性をうみだす。摂取された劣化ウラン粒子もまた放射性および毒性の危険をうみだす。」陸軍環境政策研究所(AEPI)による1995年の研究も、「劣化ウランが体内に入ると、重大な医学的帰結をうみだす可能性がある。体内の劣化ウランと関連する危険は、化学的なものであるとともに、放射線医学的なものである」と述べ、健康への悪影響を重ねて指摘した・・・・ こうした研究にもかかわらず、1996年に出された『最終報告――湾岸戦争帰還兵の病気に関する大統領諮問委員会』は、「湾岸戦争帰還兵によって報告されている健康への影響が、湾岸戦争中、劣化ウランに曝されたことに起因すると考えにくい」と述べている。」
・・・・
しかしながら、「核政策研究所」の報告は?在進行中の調査結果をまとめたセクションで、次のように指摘している。
「・・・・国防総省により、米軍の放射線生物学研究所(AFRPI)で行われている研究は、劣化ウランの健康への影響の可能性について、より深く踏み込んだ研究をしている・・・・劣化ウラン片が妊娠や発育に及ぼす影響を実証するため行われている現在進行中の研究によると、体内に劣化ウラン片を埋め込まれた雌のラット(ネズミ)の胎盤や胎児から劣化ウランが検出された。しかしながら、劣化ウランはすぐには影響を及ぼすわけではなかった。劣化ウラン片を埋め込まれたラットの子どもはサイズが小さかったが、これは、劣化ウラン片を埋め込まれてから6ヶ月以上経ってから妊娠した場合にのみ起こった。もし雌のラットが劣化ウラン片を埋め込まれてから4ヶ月も経たない時期に妊娠した場合は、子どもラットの大きさに実質的違いはなかった。従って、研究者たちは、「劣化ウランは胎盤を通過してしまう」との結論を出した。
これらの結果は、CDC が出している、低線量被曝は累積的であるという結論と一致する・・・・
[さらに、他の研究によると]劣化ウランは、「遅発性の影響」を及ぼすように思える――劣化ウランが取り除かれてから1ヶ月経った後でも、新しい細胞の遺伝子が傷つけられていた。ミラーは、非常に少ない量なので放射線としても毒物としても無視しうる程に「微量」の劣化ウランを調べた研究から、重大な遺伝子上のダメージを引き起こすのは、放射線と毒性の複合だと信じている。『予期される8倍以上の影響が認められる。このことは、これまで考えられてきた8倍以上の細胞が遺伝子にダメージを受けることを意味する』とミラーは述べる・・・・」
今や、劣化ウランは無害であるというアメリカ政府の見解は、科学的信憑性に欠ける、きわめて不徹底で偏った調査報告に基づくことが、明白になりつつあるといえよう。DDT、ガソリンに含まれる鉛、PCB、タバコ、アスベスト、あるいはベトナム戦争で使われた枯れ葉剤エージェント・オレンジなどの場合同様、劣化ウラン兵器に既得権益を有する産軍官複合体からの抵抗は甚だ強い。しかし、劣化ウラン兵器が放射性の大量破壊兵器であると認識される日はきっとやってくるだろう。唯一の問題は、この真実が広く受け入れられるようになるまでに、さらにどれだけの多くの被害がもたらされることになるかだ。」
(『劣化ウラン―危険性評価の科学的根拠』の原文、"Depleted Uranium:
Scientific Basis for Assessing Risk"は、「核政策研究所」(Nuclear
Policy Research Institute)のホームページ(documents section)に全文がアップされています。
なお、「核政策研究所」の報告書からの引用は、報告書原文では、pp.11-12、pp.15-16)