毎日新聞 2004年9月20日 大阪朝刊
文部科学、経済産業両省所管の財団法人・日本原子力文化振興財団(東京都中央区)が「劣化ウランが白血病やガンに結びつく理由は考えられない」とする冊子を報道機関や原発関連企業へ配布。これに抗議した社民党の質問主意書に対し、政府が「劣化ウラン弾の影響で健康被害が増大した情報は未確認。内容の適否に見解を述べる立場にない」と回答していたことが19日、分かった。同弾の影響とみられるイラクなどでの被害救済に取り組む市民団体や研究者らは、猛反発している。【遠藤孝康】
今年6月15日発行の「劣化ウラン弾による環境影響−IAEAとUNEPの報告から−」(A4判10ページ)。「劣化ウラン弾の影響を考える際の基礎的情報を提供するため」としてこれまでに約770部を配った。
冊子は「劣化ウランの放射線量は天然ウランの100分の1で際立って安全なウラン」「地面付近の放射線量は通常1メートル離れた位置で測定。この方法なら周辺と同レベル」などと指摘している。
イラクについても「劣化ウランが破壊された戦車や地中に残留している間、他地域よりリスクは高いが現状で健康に影響を与える状況ではないと想像される」など「安全」「心配ない」といった健康被害を否定する表現が十数カ所から20カ所繰り返し出てくる。湾岸戦争などで同弾が使用されたイラクでは、小児がんなどの急増が指摘され、世界各国のNGOなどが救援活動をしている。
社民党の福島瑞穂党首は8月、「米軍の同弾使用を積極的に支持し、擁護するのが目的のような内容」と、質問主意書を政府に提出。今月10日付で回答があった。
京都大原子炉実験所の小出裕章助手は、「標的に命中の際、空気中に拡散するウランの微粒子を吸い込み、放射線(α線)で遺伝子が破壊され内部被ばくする。拡散を考慮せずに健康への影響を否定するのはおかしい」などと批判している。
イラクで劣化ウラン弾の被害調査を進めてきた市民団体「NO DU ヒロシマ・プロジェクト」の森滝春子世話人(65)=広島市佐伯区=は「原子力の平和利用振興が目的の財団が、兵器である劣化ウラン弾に言及すること自体おかしい。冊子は、根拠なく同弾の安全をアピールし、被害実態を無視した内容だ」と憤っている。
横手光洋・同財団常務理事は「冊子を作った際、政府の指示はなく、同弾使用の是非を論じるものでもない」としている。
■ことば
◇劣化ウラン弾
原子炉や核兵器に使用する天然ウランを濃縮後に残る核廃棄物「劣化ウラン」を弾頭に備えた弾丸。製造コストが安い。鉄や鉛などよりも比重が重く貫通力が強いため、主に戦車や装甲車を攻撃するのに使用。燃焼の際に微粒子が飛散、大気や土壌などの汚染が懸念されている。湾岸戦争などで使われ、イラク戦争でも使われたとみられる。兵士や周辺住民にがんや白血病などの健康被害が生じたとの報告があるが、科学的な因果関係は未解明とされている。