皆さま
先週14日にヘルシンキから戻りました。振津です。
休む暇もなく翌日から時差ぼけの頭のまま仕事が始まってしまい…少し遅くなりましたが、とりあえずのご報告をさせて頂きます。
現地での主な行動は下記でした。
- 9月8日ー10日:IPPNW国際大会
- 8日:フィンランド国防省訪問
- 9日:IPPNW国際大会で分科会「ウラン兵器の健康影響」、NGOの野外集会参加(アピールと署名活動)
- 11日:記者会見
- 12日:国会議員レクチャー、国会内のホールでセミナー「イラクのバスラでの癌の推移/劣化ウランー45億年の健康リスク」
- 13日:フィンランド外務省訪問
今回の行動にはICBUWから、私と、先日の広島大会にも参加したベルギーのリア・ベルジャウさん(ICBUW評議員)が参加しました。フィンランド政府や議員へのロビー活動、セミナーなどの準備は、フィンランドのICBUW支持グループ(Women for Peace, No More Nuclear Power Movement, Finnish Peace Committee) が積極的に担ってくれました。バスラのアルアリ先生は、全ての活動に参加して下さり、イラクの現状、ウラン兵器の危険性を私たちとともに訴えてくれました。また9日のIPPNWの分科会と12日のセミナーには、アルアリ先生に加え、キース・ベイバーストックさん、トーマス・フェージさんも協力して下さり、科学者として、あるいは医師として劣化ウランの毒性を明確に主張し、ウラン兵器の禁止の必要性をともに訴えてくれました。IPPNWの大会でのDU問題分科会は、ICBUWとIPPNWドイツ支部(ICBUWの創設団体のひとつでもある)との共催で準備し実現したものです。
IPPNWの評議員や事務局へはさらなるプッシュをしなければなりませんし、フィンランド政府や国会議員へのロビー活動の今後のフォローなど、国際キャンペーンとも連携しながら継続した取組みがを行う必要があります。今回の行動では、ICBUWの国際キャンペーンを進める上でもいくつかの成果があったように思います。私としても、今後の国内外での運動を進める上で、いろいろと勉強にもなりました。
まだ整理ができていませんが、とりあえずの報告メモです。ご参照下さい。
1)IPPNW世界大会での分科会「ウラン兵器の健康影響」など
- IPPNWドイツの代表のアンジェリカ・クラウセンさんが司会。
- アルアリ医師の話し:バスラの汚染状況、癌の疫学調査について報告。
- トーマス・フェージさんの話し:劣化ウランの化学毒性・放射能毒性についての医学的解説、動物実験やこれまでの核開発の中での人的被害からわかることを報告。神経毒性も含めて「湾岸戦争症候群」の多彩な症状にも結びつくような健康影響について。
- 振津の報告:ICBUWの活動、ウラン兵器禁止を求める根拠について。独自の科学的評価、被害者支援・医師への支援、被害調査・被害者支援・禁止に向けた国際機関や各国政府への働きかけなどを、IPPNWが具体的に積極的役割を担うよう提案。
- 約30名の参加者、日本からもIPPNW大阪支部の方々をはじめ、広島、長崎からも参加。バスラからの医師の研修受け入れをされ、アルアリ先生とも交流のある、長崎大学の朝長教授も議論に参加。
- 米国、ニュージーランドをはじめ、様々な国々の医師や医学生も参加した。時間が足りなかったが、熱心な質疑応答と議論がなされ、医師達の関心の高い様子がうかがわれた。
- 分科会を主催した私達としては、IPPNW国際大会として、ウラン兵器禁止と被災者やイラクなどの被災地の医師への支援、独自の健康影響評価を行うなどの内容の決議をあげるように分科会から提案する方向で前日まで議論をし、決議案の準備も進めていた。しかし当日の朝になって、IPPNWの事務局から話しがあり、「すでに2年前の北京の大会の時にIPPNWとしてはウラン兵器禁止を求めるICBUWの立場を支持する決議をしているので、今回新たな決議はしない。提案は受け入れられない。」とのことで、残念ながらこちらも急遽、対応を変えざるをえなかった。IPPNWの事務局の言い分としては、「北京大会の際にDU分科会から出された決議案の一部(下記)についてはIPPNWとして正式に採択した」とのこと。これは2年前の北京大会で、嘉指さん、森瀧さんがIPPNWドイツのメンバーとともに頑張って下さった「成果」でもある。しかし、なぜかIPPNWのウェブサイトでも、どの公式文書でも、このことについての明確な表明がされていないのが実態。今後、ドイツのメンバーとも連携してこのことを明確にさせてゆくと同時に、IPPNWが基本的にICBUWのウラン兵器禁止要求を支持していることを国際的にも、各国でも、大いに宣伝して、ロビー活動にも活かしてゆこうということになった。新しいIPPNWの評議員にDUの資料を送りつける、具体的な行動提起の勧告を送るなど、今後も中からのプッシュを続ける予定。
二年前に「採択した」内容というのは下記です。
"IPPNW supports a general and comprehensive prohibition of the development, production, transport, storage, possession, transfer and use of uranium ammunition, uranium armour-plate and of any other military use of uranium, as proposed by the International Coalition for Ban on Uranium Weapons (ICBUW)."
「IPPNWは、『ウラン兵器禁止を求める国際連合』(ICBUW)が提案している、ウラン兵器、ウラン装甲板、及びウランのその他のいかなる軍事利用も、その開発・輸送・貯蔵・所有・譲渡そして使用に至るまで、全般的・包括的に禁止を求めることを支持する。」
- 分科会以外でも署名、チラシ、資料、ニュースレターの配布など、宣伝活動を積極的に行った。
2)フィンランドの市民グループとの連携で行ったロビー活動、交流など
*国防省訪問:
国防省広報部長のJyrki Livonen氏と約1時間にわたり会談。
(国防省と聞いて構えていた私にとっては、彼のとても「フレンドリー」な対応に少なからず驚きました。もちろん「官僚」なので、返答には限界があるものの…下記のようないくつか興味深い対応がありました。)
「フィンランド軍はウラン兵器を使用したことはないし、現在は装備してはいない。将来的にも使用しない。1950年から70年にかけてソビエト製のウラン兵器を少しだけ装備していたが、現在ははずして保管してある。今後ウラン兵器を購入するつもりはない。」とのこと。
「5年前、コソボへの平和維持人員の派遣の時にフィンランドでも問題になったので、劣化ウラン弾には関心を持っている。」とのこと(フィンランドはイラクには派兵していない)。
「ウラン兵器による汚染が人体に有害である」という基本的な認識は持っており、ウラン兵器の汚染を受けたバスラからのアルアリ先生の報告には強い関心を示して話しを熱心に聞き質問などもしていた。「ウラン兵器が使用され、汚染している地域への人員、兵員の派遣には、自国のスタッフや兵士を守る義務があるので、それなりの手だてをとる必要があると認識している。」とのこと。ちょうどレバノンへの250名の「平和維持軍」派遣がフィンランド国会で決議されたところだったので、「イスラエルにレバノンでの攻撃にウラン兵器を使用したかどうか確認すべきではないか」というこちらの質問に対し、「これは外交上の問題なので外務省の担当だ」として直接の回答は避けたが、「6週間後の実際の派兵までにできるだけ情報を得られるように努力したい」「確かな情報が得られない場合は独自に放射能汚染を測定するなり対処する」「いまや、どこの地域紛争においてもウラン兵器が使用される可能性がある。問題はもはや、使用されたかどうかよりも、どの地域で、どれほどの量が使用されたかが問題だ。」と、答えた。
フィンランドは人口が530万人という小さな国だが、周囲の大国の狭間で、支配をうけたり戦闘にまきこまれたりしてきた歴史がある。第二次世界大戦でフィンランド軍は、最終的にナチスドイツの支配の下にソ連に侵攻することとなり、「敗戦国」として終戦を迎えた。そのような経験からか、戦後は東西冷戦の中でも一定独自の外交ポリシーを持ち「平和維持活動」などにも力を入れることを政策のひとつの柱にしてきたそうだ(フィンランド政府の「肩を持つつ」もりはありませんが、同じく「平和維持活動」を頻繁に口にするようになった日本政府とは、少なくともウラン兵器の健康影響に対する認識などは、かなり違う印象を受けました)。
*外務省訪問:
外交と安全保障担当の次官のMarkus Lyra氏と30分ほどやりとりをした。
「フィンランドとしても、ウラン兵器禁止決議の提案・支持国のひとつになって、国連でも、欧州議会でも国際的なイニシアティブを発揮してほしい。」とのこちらの要望に対し、「今回の国連総会では、新しい議題を持ち出すのは時期的に難しい。来年の春以降なら(次の総会に向けて)検討の余地があるかも。」との返答。「他にどのような国々が提案・支持国になる可能性があるのか」と、気にしていた。
「ベルギー、ニュージーランドなどでは、すでにロビー活動も進められている。スェーデン、イタリアなど他の欧州諸国でも可能性はある」…とこちらから返答(「ウラン兵器に関する国連決議」は、「禁止条約」実現への動きを前進させるためのひとつステップとして、ICBUWでも「決議案」も含めて議論を進めているものです)。
「イスラエルに対してウラン兵器を使用したかどうか尋ねるべきではないかという問い」については、明確な返答はなかった。
*国会議員との会談:保守、中道も含めて5つの政党(フィンランドでは全部で8つの政党があるとのこと。このような会談に5党も出席することはあまりないこのようです)の議員が参加して私達のレクチャーを受けた。特に、「左派連合」、「緑の国会議員」は積極的にICBUWのキャンペーンに対する支持を表明。
*セミナー「イラクのバスラでの癌の推移/劣化ウランー45億年の健康リスク」フィンランドの市民グループ(Women for Peace, No More Nuclear Power Movement, Finnish Peace Committee)と、国会議員のグループ「左派連合」「緑の国会議員」の共催。90名余の参加あり。多くはフィンランドの市民活動家だが、この時期に開かれたIPPNW、国際平和ビューロー(IPB)など、他の国際会議に参加した欧州の活動家(イタリア、イギリス、エストニアなど…)もけっこう参加していた。「国際反核法律家協会」(IALANA)の国際コンサルタントでもあるニュージーランドのアラン・ウェア氏も参加し積極的に議論に加わった。イラク大使館からも数名、フィンランドの国会議員も数名参加。司会は「左派連合」のPentti Tiusanen氏(環境委員会メンバー)。「緑の国会議員」のHeidi Hautalaさんも連帯の挨拶をし、「禁止条約」を求めることへの支持を表明し、国会内でこの問題を必ず取り上げ、フィンランド政府が国連決議などの実現にも積極的な役割を担うように迫ってゆくとの表明をした。国連平和維持活動に参加したフィンランドの退役軍人も発言し、コソボで使用された劣化ウラン弾の問題を訴えた。アルアリ先生、振津、リアさん(ベルギーでのロビー活動を中心に)、トーマス・フェージさん、キース・ベイバーストックさんがそれぞれ報告。イラクでの被害に関連した質問、国連決議の支持国の候補について、またウラン兵器と核兵器との違いなどについてなど、様々な質問や意見が出され、熱心な議論がなされた。
私達の帰国後、フィンランドの No More Nuclear Power Movementのメンバーから連絡があり、「左派連合」のTiusanen氏が早速、国会議長に対して「フィンランドが国連でのウラン兵器禁止の決議を支持するために具体的な行動を取る意志があるかどうか」についての質問状を提出したとのこと。
*記者会見:地元の新聞社とラジオ局が取材。翌日の新聞の一面記事にアルアリ先生のインタビューなどが掲載された。ラジオ局は、後日、20分番組を2回にわたって放送する予定とのこと。イラクの現状だけでなく、ICBUWの活動、フィンランドの市民グループの取組み、フェージさんの「歯のプロジェクト」の話しなども含めて。
*その他、NGOの集会・交流会などにも参加し、同時期にヘルシンキで開催されていたいくつかの国際会議、欧州地域会議に参加していた、人権、平和、軍縮、反核、環境保護など様々なNGOの人々との交流を持つことができた(詳細は割愛します)。
*今回のロビー活動などを通じて…
日本の政府はフィンランド政府などとは違って、アメリカの戦争政策「べったり」ですが…それだからこそ、ICBUWとしてもっと日本政府に対してもウラン兵器の問題を突きつけてゆく必要があると、改めて強く感じた次第です。先日の広島大会でも関心を集めた嘉手納基地のウラン兵器貯蔵の問題も重要な課題のひとつです。すでに多くの方々が指摘しているように、サマワから帰ってきた自衛官の問題もあります。
日本政府にウラン兵器の危険性を認めさせ、被害地域への本当の意味での支援や、何よりもウラン兵器禁止のための真剣な外交努力などもするように求めてゆくことも大切です。今後も、全国でウラン兵器反対に取組む皆さんとともに、運動を拡げ、少しずつでも前に進めてゆければと思います。11月の国際共同行動も、世界の運動ともつなげて、全国の皆さんとともに取組みたいと思います。
まとまらない報告で、だらだらと書いてしまい申し訳ありません。
まだまだいろいろあるのですが、もう少し整理してまた別の機会に改めて報告させて頂きたいと思いますので、よろしくお願い致します。
振津かつみ/ICBUW評議員
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