ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)創設10周年にあたって(10.12.2013)

     ICBUWは、この10月12日で創設10周年を迎えます。

 1991年の湾岸戦争以降、劣化ウラン弾は、無差別的被害を人体・環境に及ぼしうる非人道的兵器として論争の的となってきましたが、旧ユーゴ紛争に続いて、イラク戦争においても繰り返し使用されました。こうした現実を深刻に受け止めた平和活動家・科学者・法律家などが、2003年10月、ベルギー・ブリュッセル郊外のベルラールに集まり、ICBUWを結成しました。
 ICBUWは、創設以来、各国と各地域でウラン兵器禁止の様々なキャンペーンを展開し、現在、世界33カ国、159団体が参加しています。国連など国際機関の本部があるジュネーブ、ニューヨーク、ブリュッセルなどで、軍縮関係者・一般市民向けのワークショップ・国際会議や写真展を開催するなど、様々な取り組みを行ってきました。また、2009年からは、ノルウェー外務省からの助成金も得て、イラク・バスラ地域での疫学調査支援、劣化ウラン兵器の拡散・製造・売買についての調査、バルカン半島における劣化ウラン汚染調査などにも取り組んできました。日本でも、2006年8月には、広島で第三回ウラン兵器禁止国際大会が、「ヒロシマから世界に届けよう“劣化ウラン・ヒバクシャの声を!」の標語のもとに開かれ、3日間の延べ参加者数は1000名余りに上りました。

4回の「劣化ウラン兵器国連決議」をはじめとする同兵器反対の国際世論
 2007年12月には、国連総会で「劣化ウランを含む兵器・砲弾の使用の影響に関する決議」が、賛成136票の圧倒的多数で採択されました。しかし、国連決議は、残念ながら、“有害性の科学的実証”をめぐる論争が壁となって、端的にウラン兵器の使用禁止を求めるものでなく、国連加盟国と関連国連機関に対して劣化ウラン兵器の影響に関する意見の提出を求めたものに留まりました。しかし、1990年代からずっと論争の的となってきたウラン兵器の問題が、ようやく国連総会の場で国際軍縮の課題のひとつとして取り上げられた意義は極めて大きいと言えます。同様の決議は2008年にも採択され、2010年には、使用国側に対し、被害国政府の要請があれば、使用した量や地域に関する情報開示を求める決議が圧倒的多数で可決されました。反対したのは、アメリカ・イギリス・フランス、イスラエルの4カ国のみ。なお、これらの決議案は、「非同盟運動」(NAM)諸国によって提案されたものです。
 さらに2012年12月には、4度目となる決議が圧倒的多数(賛成155、反対4)で採択されました。反対したのは前回同様、アメリカ・イギリス・フランス・イスラエルの4ヵ国のみでした。日本政府は、これら4回の決議のいずれにも賛成票を投じています。この決議では、新たに前文に、「劣化ウラン兵器の使用に対する予防的アプローチを呼びかける」という、2010年にUNEP(国連環境計画)が国連事務総長に提出した意見書から引用した文章が加わりました。これは、「予防原則」をひとつの論拠に禁止を求めてきたICBUWの主張を反映するものであり、圧倒的な賛成多数で採択されたことには大きな意味があります。
 国連決議の他にも、この10年間、ICBUWの国際キャンペーンと国際世論の力で、下記をはじめ、いくつかの前進がありました。
・ 2007年には、世界に先駆けてベルギーで「劣化ウラン兵器禁止」法が採択され、2009年6月発効。2011年、同様の禁止国内法かが、中米コスタリカ国会でも成立。(ニュージーランド、アイルランドでも、国内法制定の努力がされている。)
・ 2008年5月に欧州議会で、また2009年9月にラテンアメリカ議会人権委員会で、ウラン兵器使用のモラトリアムと、国際的禁止に向けた一層の努力を求める決議が採択された。
・ 「非人道的無差別殺傷兵器」であるクラスター爆弾が、対人地雷に引続き、禁止を求める国々の政府とNGOとの連携した動き(オスロ・プロセス)をつくる中で、2008年末に「禁止条約」締結を実現したことも、「次はウラン兵器の禁止へ」との国際的な関心に繋がった。
・ 2009年1月、バルカンなどから帰還した後に、がんや悪性リンパ腫などの疾病に罹患した退役軍人やその遺族 が、国に対して補償を求める裁判が相次いでいるイタリアでは、国防大臣が初めて「劣化ウラン被害」 を公に認め、被曝した兵士に対する補償を行うことが閣議決定された。
・ 2009 年 11 月、オランダ政府に対し、予防原則に基づいて、劣化ウラン兵器のモラトリアムに向けて取り組むよう求める内容の国会決議が採択された。
 国連決議は条約のように加盟国に国際法上の規制等を課すものではありません。しかし、ICBUWのキャンペーンと国際世論を背景にした、これら一連の動きによって、2003年のイラク戦争の後には、ウラン兵器を所有している国々が実際の戦闘において同兵器を使用することを事実上阻止してきたといえるのではないでしょうか。

イラク保健省・WHO調査への批判
 今年8月、シリアにおける化学兵器使用をめぐり、当初、アメリカのオバマ大統領は、国際法違反を犯したシリアに対する「懲罰」攻撃の必要性・正当性を声高に唱えました。しかしながら、劣化ウラン弾をめぐる長き論争を考えるならば、あたかも「正義の使者」を自任しているかのようなそのレトリックは、まさに、偽善の極みとしか響きませんでした。シリア攻撃に積極的な姿勢を見せていたアメリカ・イギリス・フランスは、国連の劣化ウラン弾決議にそろって反対し続けている国なのです。しかし、こうした明々白々たる矛盾・虚偽を指摘する声は主要メディアから挙ることはなく、国際社会は劣化ウラン弾をめぐる論争など忘れてしまったかのような感を持ちかねません。
 しかし、アルジャジーラとともに、BBCも含めた英国メディアは、イラクにおける、とりわけ2004年に米軍による猛攻が行われたファルージャにおける先天性障害などの増加に関する報道を、ここ3、4年、頻繁に行っています。例えば、『ガーディアン』は、2009年11月13日、「ファルージャで先天性障害急増」と題された現地リポートを掲載し、「あまりの事態の深刻さに圧倒されている医師たちは、国際社会からの支援を訴えている」と伝えました。また、2010年の12月30日にも、「ファルージャでの先天性障害やがんの増加は、米軍による攻撃が原因か—新たな調査が示唆/新生児障害は平均の11倍」と題された記事を掲載し、ウラン兵器を含む、戦争による環境汚染の被害を示唆するものと報道されました。
 WHOも、こうした一連の報道を無視できなかったのか、遅まきながらも、イラクにおける「先天性障害の規模、分布、傾向」を明らかにするための予備調査を、イラク保健省を支援する形で行いました。WHOのイラク・セクションのホームページによれば、そのための準備は2011年半ばから始められ、バグダッド、バスラ、それに、ファルージャのあるアンバール州など9地域におけるデータ収集が2012年半ばに着手され、同年10月には完了、今年初頭にも公表される予定でした。しかし、WHOとイラク保健省からは、半年経っても調査結果の公表はなかったため、7月末にはファルージャの医師の呼びかけで「データを至急公表するよう求める国際署名」が始まりました。ICBUWもこの署名に協力し、現在署名数は5万筆を越えています。
 このような国際世論に押され、ようやく9月13日、WHOのホームページに調査結果が公表されました。しかし、その結果は、「異常な高さを示す証拠はなし」というものでした。すでに半年ほど前、BBCはイラク保健省の話として、「WHOは、イラクにおける先天性障害に関するパイロット調査の結果を近く発表するが、その内容は、先天性障害の増加を確認するものとなりそうだ」と報じていましたので、今回の発表は、こうした報道と真っ向から矛盾するものです。
 今回の結果発表に関しては、多くの激しい批判が出されています。医学専門ジャーナルのLancet(ランセット)も、10月1日、”Questions raised over Iraq congenital birth defects study”(イラクの先天性障害調査に向けられた疑問)のタイトルの記事を掲載しました。(http://bit.ly/17n3BfH)多くの専門家から、今回のWHOとイラク保健省の調査は、調査方法に問題があるとの指摘がされています(調査地域の選択の基準が不明瞭。アンケート調査のみに基づくもので、医療機関による記録が反映されていない。先天障害の診断は、そもそも簡単ではない。調査内容やデータの公開と説明が不十分であり、調査責任者が明記されておらず、「査読」を経た報告とはいえない。等々)。また、『ハフィントン・ポスト』も、『ランセット』の記事を受けて、10月4日、”Iraqi Birth Defects Covered Up?”(イラクの先天性障害は隠蔽?)のタイトルの記事を掲載しています。(http://huff.to/18DDAse)
 ウラン兵器の使用など戦闘による環境汚染の健康影響調査については、調査方法、解析、結果公表の全課程において透明性のある、独立した調査が必要です。また、被災地域で地域医療に携わっている医師らが調査に参加できるようにすべきです。そして被災地域の住民の健康管理と医療への支援と結んで行うべきです。そのような点からすれば、今回のWHOとイラク保健省による調査とその公表は、被害地域の実情を隠蔽するための政治的なものと言わざるをえません。私たちICBUWのキャンペーンの中でも、イラクの医師らを支持し、引き続きこの問題についてWHOを追及していきたいと思います。

日本での取り組み〜劣化ウラン兵器を放射性廃棄物の軍事利用として改めて問い、禁止へと前進しよう〜
 この10年間、日本でも思いを同じくする多くの方々がICBUWの活動に参加し支えて下さいました。日本からのICBUW賛同団体は30にのぼります。毎年、広島での交流会、全国各地で11月国際共同行動、集会、写真展など、様々な取り組みを展開し、また対政府要請などにも取り組んできました。
 ヒロシマ・ナガサキを経験した日本が、放射性物質の軍事利用である劣化ウラン兵器の全面禁止に向けた先導的役割を果たすべきであることはいうまでもありません。私たち日本のICBUWの働きかけもあり、国連決議に対して日本政府は、アメリカなどが反対票を投じる中、4回とも賛成票を投じてきました。また、国連決議の要請に応えて日本の外務省が提出してきている見解では、「NGOとの対話」に言及しています。しかし、未だにウラン兵器の国際的禁止や米軍基地内の貯蔵兵器の撤去には、踏み出さず、消極的なスタンスのままです。国連へ提出した見解でも、残念ながら、「関連機関の科学的調査の行方を注視する」と述べるに留まっています。
 ウラン兵器禁止を求める市民の声にも応える形で、「劣化ウラン兵器禁止を考える国会議員勉強会」が超党派で結成され、第1回会合が2010年2月に開かれました。この超党派の「勉強会」は、ICBUW-Japanが働きかけ、10名の超党派の国会議員が連名で呼びかけて立ち上げられたもので、2013年3月までに7回開催されました。(今年3月には、イラクの医師や、ウラン兵器禁止法を成立させたコスタリカからICBUWのメンバーを迎え、各地で講演会を行うとともに、議員勉強会での講演も行われました。2012年秋以降は、総選挙、政権交代と大きな政局の変化もあり、いかに超党派の動きを継続できるかが課題となっています。)
 東日本を襲った大地震と大津波、そして、その直後に起こった東京電力福島第一原発の重大事故により、私たちは、文字通り身も心も震撼させられました。他ならぬヒロシマとナガサキの国・日本において、チェルノブイリにも迫るかと思われる放射能汚染事故が引き起こされてしまったのです。脱原発と再生可能エネルギーへの転換をめざして、根本的な政策転換を行うかどうかが迫られています。それにもかかわらず、政府や「原子力ムラ」の専門家は、事故直後から「緊急時の放射線防護基準」を採用し、市民と労働者に被ばくを押し付ける政策を進めています。
 東電福島第一原発事故によって、核利用の危険性が改めて明らかになった今、核兵器と原子力発電、そして、ウラン採掘から放射性廃棄物の軍事利用である劣化ウラン兵器の使用までが一連のサイクルをなす核/原子力体制を、改めてその根底から問い直さなければなりません。そして、核被害者を支援し、これ以上の核被害をなくしていくために、核の軍事利用も平和利用もなくしてゆく運動を強めねばなりません。そのような流れの中で、劣化ウラン兵器問題を放射性廃棄物の軍事利用として改めて問い、禁止へと前進したいと思います。
 劣化ウラン兵器禁止キャンペーンに対しても、一層のご支援・ご協力をお願いする次第です。何卒宜しくお願いいたします!

    ICBUW運営委員:嘉指信雄、振津かつみ、森瀧春子

         http://icbuw-hiroshima.org/
     岩波ブックレット(2013年8月発売)
         『劣化ウラン弾 軍事利用される放射性廃棄物』
         (嘉指信雄、振津かつみ、佐藤真紀、小出裕章、豊田直巳:)