「被曝身体とパワー/権力—ポスト・ヒロシマ時代の「見えるものと見えないもの—」(『現代思想』2010年4月)

「ICRPによる「放射線安全基準」は・・・軍事的・経済的な「パワー/権力」体制を支える要石として機能している・・・」

嘉指信雄「被曝身体とパワー/権力—ポスト・ヒロシマ時代の「見えるものと見えないもの」(『現代思想』2010年4月、pp.174-185)

「核をめぐる国際的秩序は、核保有国(nuclear powers)による軍事的パワーの維持を目的とするNPT(核拡散防止条約)体制と、原子力(nuclear power)のいわゆる平和利用を推進することを目的とするIAEA(国際原子力機関)による管理体制を二本柱としているが、ICRPによる「放射線安全基準」は、こうした軍事的・経済的な「パワー/権力」体制を支える要石、あるいは、ここでもメルロ=ポンティの用語に「一貫した歪曲」をほどこしつつ言えば、見えない回転軸・次元として機能していると言えよう。つまり、或る「安全基準」を設定することにより初めて、原子力発電の国際的な促進は可能となっているのだ。ようやく核兵器廃絶への機運が高まり始めた現在、同時に、放射線安全基準という制度そのものの脱構築、抜本的な「再制度化」が求められている。それこそ、歴史という「制度」に、「ある後続への呼びかけ、ある未来への希求」をみたメルロ=ポンティの歴史哲学が示している地平であろう 。」